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元ソフトバンク→京大新監督・近田怜王(31歳)が語る”頭脳派集団の洗礼”「聞いたこともない言葉が次々に」「みんな仮説を必ず立てます」 

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田尻耕太郎

田尻耕太郎Kotaro Tajiri

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posted2021/12/28 11:05

元ソフトバンク→京大新監督・近田怜王(31歳)が語る”頭脳派集団の洗礼”「聞いたこともない言葉が次々に」「みんな仮説を必ず立てます」<Number Web> photograph by Kotaro Tajiri

2012年にソフトバンクから戦力外通告を受け、現在は京都大学野球部監督を務める近田怜王

「京大生は『感覚』なんて話には見向きもしてくれない」

 近田とて全くの無知だったわけではない。野球でメシを食ってきた男だ。ソフトバンク時代にフォームのメカニズムや体の構造についての専門知識をひと通り学んだし、そのような分野に長けたトレーナーに師事して自主トレを行ったこともあった。それでも、結局最後は「自分の感覚を大事にしていた」と振り返る。

「だけど、京大生は『感覚』なんて話には見向きもしてくれない。漠然とやるのではなく、取り組みに対する意味や意義を自分で理論立てて理解したうえで物事を進めたいと考えるタイプが多いと思います」

 いかにも頭脳派集団らしいエピソードではあるが、近田は彼らのそのような思考こそが強豪私学に太刀打ちするための長所になると考えた。

「京大野球部の選手たちはいわゆる野球エリートではありません。でも、野球の才能に恵まれていないからこそ、彼らは考える。強豪校の選手と話したこともありますが、やっぱり感覚に頼りがちになる。センスがあるから言われたことをパッと表現できちゃう。考えなくても出来ちゃうから、結果重視で言われたことをやるだけで終わってしまう。プロセスに対して『この練習やアドバイスは何のため?』という質問が飛んでこないんです。

 一方、京大の部員たちは、みんな仮説を必ず立てます。この『仮説』がすごく大事で、その中から色々な方法を導き出す。自発的に取り組むから成長速度が早くなるのも当然です。京大野球部は青木(孝守)前監督時代をはじめ伝統的に選手の自主性を大切にする風潮なので、僕自身も押し付ける指導はせず、訊かれたことには答えられる準備とヒントを与えられるような声掛けを意識しています」

19年秋には、京大史上最高順位の4位に

 近田が京大野球部に携わるようになって、チームは明らかに変貌を遂げている。

 所属する関西学生野球連盟は名の知れ渡る強豪私学ぞろいだ。関大、立命大、関学大、同大、近大。各校には甲子園経験者もずらり名を連ねており、野球においては非エリートの京大はリーグ戦で「万年最下位」なのは当然という見方だった。

 しかし、近田が関わりを持つようになって3年目の19年秋には、京大史上最高順位となる4位に食い込んだ。

【次ページ】 京大野球部に浸透する「近田イズム」とは

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