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「真ん中に投げるくらいで、絶対、大丈夫」カープのセットアッパー候補・島内颯太郎が今季得た自信と飛躍のきっかけとは
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PHOTO
posted2021/12/08 06:00
九州共立大学を経て、18年ドラフト2位で広島入りした島内。3年目の今季は自己最速タイの157キロを記録するなど活躍を見せた
6月5日に一軍再昇格を果たした。
「チーム内で細かな制球力は8位くらいだけど、真っすぐなら3位、チェンジアップなら森下(暢仁)よりも上。1位だから」
そう言う永川勝浩ブルペンコーチに「何を言っているんですか」と笑って返し、真に受けていなかった。誰より、自分が自分自身を信じ切れていなかった。
分岐点となったのは7月9日、神宮でのヤクルト戦。序盤からロースコアの接戦が続き、広島打線が2点を奪って逆転した8回裏、1点リードの終盤のマウンドを託された。2連投中の抑え栗林良吏を温存する策から巡ってきたチャンスだった。
いつものように、プルペンで力水を口に含み、永川コーチからの暗示を受けた。
「お前は真っすぐとチェンジアップをど真ん中に投げるくらいで行けば、絶対、大丈夫だから」
リードはわずか1点。3番山田哲人、4番村上宗隆、5番オスナと続くヤクルトの中軸が相手だった。出塁すら避けたい難敵山田を真っすぐで遊ゴロに打ち取り、大砲村上には初球からチェンジアップを3連投。フルカウントから151キロの真っすぐでバットに空を切らせた。最後もオスナを内角直球で遊飛に打ち取ると、背負っていた重圧や緊張感を一緒に吐き出すように大きく息を吐いた。
12球の三者凡退で掴んだ自信
ヤクルト中軸を12球で封じた3者凡退。今季初ホールド以上に手にしたものは大きかった。
「あの試合をきっかけに、自分の球に自信を持って投げられるようになった。ゾーンをめがけて、強い球を投げれば通用するんじゃないかと。コースではなくゾーンで勝負できることで、投球スタイルも変わった」
殻を破るために、必要だったのは結果と成功体験、そして何より自信だった。半信半疑だった自分の投球への確信。「ゾーンの中で勝負する」意味がようやく分かった。
あの日から投球内容が変わり、マウンドでの表情も変わった。
ブルペンでチームメートから力水はもらっても、永川コーチからの暗示は必要なくなった。
「疑っていた自分を信じられるようになった」。永川コーチはそう確信し、無言でマウンドに送り出していた。