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競馬PRESSBACK NUMBER
「生涯獲得賞金は10億超え」たった700万だったメイショウサムソンが3億超のエリート馬を破るまで
text by
林田麟Rin Rinda
photograph byフォトチェスナット
posted2021/12/03 11:02
2006年の日本ダービー。粘るアドマイヤメインをかわし、余裕の勝利にも見えたメイショウサムソンの二冠達成の瞬間
ゴールした石橋騎手は皐月賞に続いてこのダービーでもガッツポーズを見せることなく、馬の首筋を撫でるようなしぐさを見せることもなく、これまで“ふたり”で生真面目に戦ってきた他のレースと同じようにゴール後を迎えた。もちろん、ゴーグルをとって観客の波に投げ込むような派手なパフォーマンスもない。
地下馬道を引き揚げていくふたりの背中は、寡黙だが仕事を着実にこなし期待以上の結果を残す、そんな叩き上げの職人の背中のように見えた。勝利騎手インタビューの冒頭、今の気持ちを聞かれた石橋騎手の第一声は「騎手という仕事につけて本当に感謝しています」というものだった。控えめな言葉だったが、競馬の世界で「騎手という仕事」と「競走馬という仕事」を妥協せずに歩んできた“ふたり”の生きざまを表わしていたように感じられた。
競馬の醍醐味は「雑草馬がエリート馬を蹴散らす」
その後もサムソンは天皇賞・春秋連覇を成し遂げるなど活躍し、生涯獲得賞金は10億を超えた。一方で、件の最高額取引馬フサイチジャンクは1億も稼げずに現役を引退している。瀬戸口調教師はサムソンをして「雑草という言葉がよく似合う馬」と称した。そういう馬がエリート馬を蹴散らす姿は、昔から続く競馬の醍醐味の一つと言える。