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「生涯獲得賞金は10億超え」たった700万だったメイショウサムソンが3億超のエリート馬を破るまで 

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林田麟

林田麟Rin Rinda

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photograph byフォトチェスナット

posted2021/12/03 11:02

「生涯獲得賞金は10億超え」たった700万だったメイショウサムソンが3億超のエリート馬を破るまで<Number Web> photograph by フォトチェスナット

2006年の日本ダービー。粘るアドマイヤメインをかわし、余裕の勝利にも見えたメイショウサムソンの二冠達成の瞬間

 サムソンと石橋騎手は、寡黙な職人が目の前の仕事に一つ一つ丁寧に向き合うように一戦一戦ひた向きに走り、着実に力をつけていった。皐月賞では6番人気という伏兵扱いをあざ笑うかのように早め先頭に立って迫ってくるライバル馬を力でねじ伏せた。

 そんな“ふたり”はようやく主役として認められ、日本ダービーを1番人気で迎える。とはいえ、単勝10倍以内の馬が5頭もいる混戦模様のダービーだった。

3億超の高額馬も…エリートが並んだ日本ダービー

 メイショウサムソンと石橋騎手は、ダービーを迎えるまで既に10戦を消化していた。一方その半分のわずか5戦のキャリアで登場したのが2番人気のフサイチジャンク。この馬は、当歳時に上場されたセレクトセールで当時の最高取引額3億4650万円という、実にサムソンの50倍もの価格をつけた期待馬だった。続く3番人気には当時既にダービーを4勝していた武豊騎手が鞍上のアドマイヤムーン、4番人気にはトライアルの青葉賞をレースレコードで逃げ切ったアドマイヤメインが続いた。このアドマイヤメインも1億4595万円の高額取引馬である。

 前日から降り続いた雨が日曜の午前中には降り止み、稍重発表の馬場でスタートが切られた。蒸し暑い空気と、蹄に絡みつくような芝はサムソンと石橋騎手にとっては好都合のコンディションだったに違いない。レースを先導したのは大方の予想通り、青葉賞を逃げ切っているアドマイヤメインだった。スタート直後にフサイチリシャールに寄られるも半ば強引にハナを主張し、そのままマイペースに持ち込む。

 一方のサムソンは上々のスタートから素早く好位のインを確保し、道中は石橋騎手が手綱をグッと絞って折り合いに専念。4コーナーから徐々に外へ持ち出し、直線を向く頃には逃げるアドマイヤメインを射程に捉えていた。

 それでもアドマイヤメインの脚色はなかなか鈍らず「この馬さえかわせば…」と、石橋騎手は懸命に鞭を叩いて追いかけた。アドマイヤメインの鞍上は競馬学校同期の柴田善臣騎手で、こちらもダービー初制覇がかかっている。

 サムソンが火花散るたたき合いを制したのはゴール前およそ100mの地点だった。必死に追っていた石橋だったが、ライバル馬をかわしたあとは「勝負あった」と言わんばかりに手綱を緩めた。わずかクビ差だったが、それ以上の強さを感じさせる力強い走りであった。

第一声は「騎手という仕事につけて本当に感謝しています」

 そして冒頭のシーンに戻る。

【次ページ】 競馬の醍醐味は「雑草馬がエリート馬を蹴散らす」

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