元日のラリアート騒動以降、しばらくTVで長州の姿を見ないな……と思っていたら、プロレス月刊誌や東スポ紙上で、長州がメキシコ修行に旅立ったことを知る。すでに中学生となっていた筆者含め、あの日に強制的に長州カットにされた面々は「長州力はメキシコで、（ミル）マスカラスみたく空中殺法でもマスターしてくんのかな？」なんて呑気な会話に興じていたものだが、話題の中心はタイガーマスクとブラック・タイガーの抗争、ヘビー級に転向した藤波の飛龍十番勝負、猪木とはぐれ国際軍団の抗争へ。いつしか長州の存在など忘れていた。

　そして秋。10月8日（金曜）の『ワールドプロレスリング』（テレビ朝日）にて事件を目撃する。メキシコから帰ってきた長州が、いきなり藤波に喧嘩を売りつけ、試合は意味不明なほど滅茶苦茶に。後に長州が「俺はお前のかませ犬じゃないぞ！」と言ったと伝えられたが、TV中継においてヒアリングできたのは「藤波！」「俺はメキシコでな〇〇〇」程度のもの、一体何が起きたのか？は翌日のデイリースポーツや東スポ、または週刊ファイト、プロレス月刊誌の発売を待つしかない。翌日の中学校教室（※当時、土曜日は半ドン授業）では、もちろん長州の反乱が話題となりつつ、それまで七三の印象が強かった長州の長髪姿には「似合わねえよな」の意見が大多数だった。

　以降の活躍はご存じの通り。

プロ野球の雨天中止が幸いして

　運命の10月8日。この日のテレビ朝日・金曜夜8時はプロ野球中継（巨人×横浜大洋＝横浜スタジアム）が予定されており、レギュラーのプロレス中継は中止のはずだった。しかも、日本テレビの『太陽にほえろ！』が、前週（10月1日）放送のスペシャル版でゴリさん（竜雷太）が殉職し、この日から地井武男演じる新刑事（トシさん）が登場。TBSは特番で『3年B組金八先生』初のスペシャル版を放送と、裏番組も強力だった。そんな状況で幸か不幸か？　プロ野球中継が雨天中止となり、後楽園ホールから長州の凱旋帰国試合が中継されることに。まさに天が長州に味方したとも言える。

　リングインから続く藤波との小競り合いから、マイクを握っての「かませ犬発言」などの場面が、TV中継されないまま、翌々週（10月22日）の広島大会で藤波との一騎打ちが唐突に電波に乗っていたとしたら、いかに後に語られる「名勝負数え唄」の第1戦とはいえ、そのインパクトがお茶の間レベルにまで浸透していなかった可能性もある。あらためて時の運、タイミングの大切さを実感させられる。

1990WWF日米プロレスサミットで橋本真也を攻める長州力　©︎Naoya Sanuki

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