原田監督が高橋の姿を初めて目にしたのは中学3年の時。当時、中学校の軟式野球部に所属し、それほど目立った存在ではなかったが、原田監督の目には確かに何かが映った。

「とにかくきゃしゃで細くてフニャフニャしているんですけれど、走り方や歩き方、身のこなし、グラブさばきを見ていてセンスはあると思いました」

　その後、何度か視察に訪れるうちに本人も龍谷大平安高への進学を志望し、晴れて名門校の門をくぐったが、中学時代に見たひ弱さはなかなか拭えなかった。

「いわゆる“食育”されてきたわけではないですから、好きなものを食べて好きなように育ってきたという感じはしましたね」

　入学直後に練習で親指を突いてケガをしたことも含め体の堅さが目立っていたため、1年夏まではランニングや柔軟性を高めるトレーニングで体作りに徹してきた。

「ただ、その段階でこちらがやれと言ったことをちゃんとやる子とやらない子と分かれてしまうんです。奎二はその中では、しっかりメニューをこなしていましたね」

予想外の公式戦デビュー

　初めて公式戦に登板したのは1年の秋。だが、それは予定外の公式戦デビューだった。

　秋の京都大会を制した後、当初投手陣の軸として期待していた投手がケガで投げられなくなり、投手陣のやり繰りに苦心していた。近畿大会では誰を投げさせたらいいのか……そんな中で白羽の矢が立ったのが高橋だった。

「キャッチボールをしている奎二を呼んでピッチングをさせました。近畿大会まではまだ2週間ほどあったので、その週末の練習試合で登板させたんです。初めての対外試合でしたが、ストライクは取れるし、それなりに投げられたので、近畿大会でベンチに入れました。初戦の近江戦では先発だと言うと“え、僕ですか？”と。5回まで何とか投げてくれたらと思っていたら、8回まで2安打無失点。9回に四球を出して交代しましたが上出来でした」

　近畿大会では全試合で先発して好投を重ね、大会を制した。明治神宮大会でも初戦の三重戦で先発して5回3分の1を1失点と、舞台が大きくなっても快投を続けた。

躍動感あるフォームで力投する高橋奎二（2015年）©︎Sankei Shimbun

　2年春のセンバツ開幕前、宿舎で高橋投手を取材した時、体の柔らかさの話題になり、実際に開脚をして見せてくれたことがあった。両脚を真っ直ぐに開き、胸を床にペタンとつけた姿は驚愕だったが、実は1年前までは開脚もできないほど股関節周りが硬かったという。「そこまで可動域が広がったのは、地道な努力があったから。ようここまでやってきたと思いますよ」と恩師はうなずく。

【次ページ】　当時のあだ名は「赤ちゃん」