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「パ・リーグの四番にあんな失礼なボールを…」野村克也がボヤいた清原和博への“失投”【伝説の1993年日本シリーズ】
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph bySankei Shimbun
posted2021/11/25 11:02
ヤクルトが王手をかけて迎えた1993年の日本シリーズ第5戦。2回表、西武の清原和博は先制ホームランをバックスクリーン左に叩き込んだ
ベンチに戻っても、清原に笑顔はなかった。打たれた宮本は言う。
「この後、ベンチに戻って野村監督にこってりと叱られました。古田のサインはインコースの真っ直ぐだったんです。でも、僕が勝手に色気を出して、“ここなら空振りが取れるだろう”と意図的に真ん中高めに投げようとしたら、それが失投となりました。ベンチに戻った後、“パ・リーグの四番にあんな失礼なボールを投げるな。一億円の選手には、それなりに厳しい攻めをしろ”って、野村さんに叱られたことをよく覚えています」
前日の風ならばスタンドインすることはなかっただろう。しかし、この日は無風に近かった。第四戦まではすべて先制点を挙げたチームが勝利している。土壇場まで追い詰められている西武にとって幸先のいいスタートだった。
5回二死満塁、古田敦也の打席で森祇晶が動いた
清原に一発を喫したものの、宮本はその後は丁寧なピッチングを続けて西武打線にヒットも得点も許さなかった。対する工藤もヤクルト打線に1本もヒットを与えないまま、スコアボードに「0」を並べていく。
試合が動いたのは5回裏、ヤクルトの攻撃だった。
この回の先頭は、スタメンに名前を連ねていた当て馬の荒木大輔に代わって、試合開始後すぐに出場していた七番の橋上秀樹からだった。
橋上は工藤のストレートを強引に引っ張り、レフト前にチーム初ヒットを記録する。続くレックス・ハドラーはセカンドゴロに倒れて、一死二塁となった。
ここで野村が動いた。
5回まで1失点に抑えていた宮本に代えて、桜井伸一を代打に送ったのだ。この場面で桜井は四球を選んで、さらに飯田も四球で続いて一死満塁となった。
一塁側ベンチの野村は立ち上がって戦況を見つめる。
三塁側ベンチの森は表情も変えずに微動だにしない。
被安打はわずかに1ながら、工藤の投球数はすでに86球となっている。それでも、森は工藤を代えるそぶりを見せない。前年に結婚したばかりの夫人がスタンドで見つめる中、二番・笘篠はキャッチャーフライに倒れて、二死満塁となった。