スコアボードに「石毛」の文字が灯ると三塁側西武ファンから歓喜の声が上がる。チームリーダーの奮闘が、西武ナインに勇気を与えないはずがない。

　試合開始直前の空白時間。神宮球場内には森下弥生が奏でるドリマトーンの音色だけが響き渡っている。少しずつ両軍のボルテージが高まっていく。

日本シリーズ初戦で右腕にデッドボールを受け、悶絶する石毛宏典　©BUNGEISHUNJU

　12時33分、試合が始まった─。

　秋晴れの神宮球場、まっさらなマウンドに上がった宮本は落ち着いていた。

「もちろん、緊張はしましたよ。でも、自分のピッチングをするだけだから。そんな気持ちでマウンドに上がったことは覚えていますね」

　先頭打者の辻発彦には小気味よくストレートを投げ込み、センターフライに打ち取った。

　二番の平野謙にもストレートを投じて、初球でセカンドゴロに仕留めた。さらに、三番・石毛はスライダーでレフトフライ。わずか7球の完璧なピッチングだった。

　対する工藤は、先頭の飯田哲也に対してスリーボールワンストライクと不利なカウントを作り出したものの、ボール気味のストレートを打たせてセンターフライに、二番・笘篠賢治もセンターフライ、三番・古田敦也をショートライナー、計14球で三者凡退に抑えた。

　前回登板では「左腕が身体から離れすぎていた」という反省から、この日は「身体に巻きつくような腕の振りを意識した」のが奏功した。

「パ・リーグの四番にあんな失礼なボールを投げるな！」

　2回表、西武の攻撃は四番の清原和博からだった。

　試合前、三塁側ベンチに座った清原は一塁側ベンチをじっと見つめていた。「今日勝てば日本一だ」と意気上がるヤクルトナインの姿を目に焼きつけ、静かに闘志を燃やしていた。

　右打席に入っても、その表情は変わらない。投手をにらみつけることもなく、気合いを前面に出すこともなく、冷静な心境で宮本と対峙していた。

清原和博は前年の第2戦でも「憧れのヒーロー」こと荒木大輔から一発を放っている（写真）。日本シリーズ通算15本は歴代3位タイ　©BUNGEISHUNJU

　カウントはツーボールツーストライクとなっていた。宮本が投じた6球目は真ん中付近の甘いストレートとなった。清原は冷静に、しかし力強くスイングする。

　打球はセンターバックスクリーンの左側に飛び込む大ホームランとなった。

　ベースを回る際にも、清原の表情は変わらない。

「シーズンを通じても完璧な当たり。今日はとにかく悔いを残したくないんです」

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