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ドーピング検査時に見せた人間力、守り続けた“父との約束”…五輪2大会連続メダリスト・三宅宏実が愛されたワケ〈引退後は指導者の道へ〉 

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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photograph byJIJI PRESS

posted2021/11/19 17:00

ドーピング検査時に見せた人間力、守り続けた“父との約束”…五輪2大会連続メダリスト・三宅宏実が愛されたワケ〈引退後は指導者の道へ〉<Number Web> photograph by JIJI PRESS

現役引退を発表した重量挙げ女子のメダリスト・三宅宏実。報道陣を自然と笑顔にさせるその人柄とは――

周囲を感嘆させた“ドーピング検査”のふるまい

 人間力の塊だ。16年8月、リオデジャネイロ五輪の競技を2、3日後に控えて現地で最終調整に入っていた時期のこと。朝、起きて練習に行こうとすると、抜き打ちドーピング検査の係員がやってきた。練習時間と完全に重なり、練習スケジュールは反故に。並みの選手なら文句や愚痴の一つも出そうな状況だった。

 けれども三宅は動揺することなく、粛々と検査を受けた。監督でもある父・義行さんも何も文句を言わなかった。その姿は周りの関係者を感嘆させたという。

 当時のことを三宅に聞くと、「大会中に(抜き打ち)ドーピング検査になったのは初めてだったので、あ、今なのか、と思った」とさらっとしたもの。幸い、検査後の時間帯に別の練習会場を押さえることができたため、まったくトレーニングできないということにはならなかったというが、周りはハラハラするばかりだったそうだ。その結果の銅メダル。関係者はプロセスも含めて感動したと話していた。

「思考と技術はまだ成長できる」

 会見を開いた11月18日は大安吉日であり、36歳の誕生日でもあった。色とりどりの花束やイチゴのバースデーケーキを前に、三宅は晴れ晴れとした顔をしていた。

 当初は別の大安の日にスケジュールを組もうとしたが会場が空いておらず、この日になったという。照れ臭そうに「誕生日は狙っていたわけじゃない。たまたまです」と言いながらも、カメラマンの要望に応えていくつものポーズづくりに笑顔で協力する姿に、報道陣も自然と笑顔になっていた。

「年を重ねた日に、けじめで、新たなスタートを切れました。これからも頑張っていきたいです」

 今後は所属のいちごで指導者になり、後進の指導に当たる。

「初めて15キロのシャフト(バー)を持った時は『重いな。力だけでは挙がらないのだな』と思いました。ウエイトリフティングは15キロのシャフトでも完璧に挙げるのにはテクニックが必要で、すごく難しいんです。私はもう重いものを上げることはできませんが、思考と技術はまだ成長できる。選手と一緒に高め合いながら課題を改善できたら良いなと思います」

 現役を終えても衰えない向上心がある。21年間の歩みが示す通りに意志の強さがある。次のステージに進むための準備は既に整っている。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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