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「ほんとうにすてき」ジャンプに苦しむ本田真凜がスケートを続ける理由を取り戻した、努力の人・浅田真央の心からの言葉
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2021/11/07 11:03
東日本選手権でフリーの演技をやり遂げた本田。フリーは101.65点で5位。総合でも5位となり全日本選手権への切符を手に入れた
中学時代は世界ジュニア選手権優勝などの実績を残し、将来を嘱望された。平昌五輪シーズンの2017-2018シーズンにシニアに転向、思い描いていたオリンピック出場はならなかったが、足踏みしつつもグランプリシリーズにも毎年、参戦してきた。
立ち位置はシニア1年目の時からは異なる。試行錯誤しつつ、でも滑りにその成果が表せない。兆しが見えなければ、モチベーションにも影響を及ぼす。昨年の全日本選手権後、アイスダンスの靴を履いてアイスダンスの練習にも取り組んでみた。自分の気持ちをたしかめたかった。
「それがきっかけになって、『あっ、スケートって楽しいんだな』とまた思いました」
ただ、揺るぎないところまで確信を持てなかったから、再び葛藤に襲われた。東京選手権のあと、「何のために滑っているのか」という思いに駆られたと言う。
転機となった浅田真央と過ごす時間
そんなとき、手を差し伸べてくれたのは浅田真央だった。東京選手権後、佐藤信夫コーチに浅田から連絡があり、「一緒に練習させていただいて、お話もたくさんさせていただいて」、同じ時間を過ごす機会を持てた。
「振り付けやプログラムを見ていただいて、『ほんとうにすてきだ』って何度も言ってくださいました。気持ちが折れかけているときに、『私も含めて真凜ちゃんの演技を見たい人がたくさんいるから、今日のようなすばらしい演技をもっと見せてほしい』と言ってくださいました」
それが大きな励ましになった。
「自分の中で誰のために滑っているのは分からなくなっていて、昔のように応援してくれる方はいるのかなと考えていました」
そこに苦しみがあったから、今の本田にとって、何よりも大切な言葉だった。
その後も連絡をしばしばもらい、「プログラムをパートに分けて練習してみる」など、アドバイスを何度か受けたと言う。
苦しみつつも粘り強く5位に滑り込み、全日本選手権出場を手にする力にもなった。
「全日本に行けたからには、もっといい演技がしたいです」
何のために滑るのか。その葛藤をひとつ打ち消す言葉を、数々の困難を乗り越えてきたスケーターが与えてくれた。
それを拠り所にモチベーションを持ち、どう毎日を過ごすか。過去と未来はコントロールできない。でも今はコントロールできる。努力の人だった先輩の姿を手本にしつつ、今を突き詰めたとき、きっと先も見えてくる。