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大学通算わずか“2イニング”登板→ソフトバンク5位・大竹風雅 無欲な男は投手転向後「人が変わった」〈恩師が明かすポテンシャル〉
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2021/10/20 11:03
ソフトバンクからドラフト5位指名を受けた大竹風雅。大学時代の公式戦登板わずか「2回」の右腕は、プロで覚醒なるか?
3年の夏、光南は準々決勝で敗れた。この試合で先発としてマウンドに上がった大竹を、渋谷は「最後は石井よりもいいくらいのパフォーマンスで、エースのような存在だった」と評した。もはや急造ピッチャーではなく、本職としての道を歩もうとしていた。
ピッチャーとなり、野球選手としての自我が芽生えた。それは大竹にとって、プロへの運命を切り開く大きなカギとなった。
4年前の“スカウト評”は…?
夏の大会が終わると、大竹のもとにいくつかの大学からオファーがあった。そこには東北福祉大も含まれており、渋谷は関係者を通じて、プロのスカウトからこんな「大竹評」を聞かされたという。
「すごい素材。高校からプロは厳しいが、福祉大で頑張れば4年後には可能性はある」
17年の時点で、全日本大学選手権で2度の優勝を誇る名門からの誘いはありがたい。ただ、渋谷からすれば大竹には、名を捨ててでも実を取ってほしいと考えていた。
「東北福祉大さんは『ピッチャーで獲る』と言ってくれたんですけど、いかんせん、大竹はまだ経験が浅いんで、『実戦経験を多く積めそうな大学で』とは思っていたんですよ。そんなことも本人と進路相談で話したら、『福祉大でやりたいです』と」
高校入学時点では欲がなく、自己主張にも乏しかった選手が、自らの意志で弱肉強食の世界に身を投じると決断したのである。
渋谷は大竹の意欲を尊重した。
「右ピッチャーでは教え子でナンバー1」
光南の監督が送り出した好素材は、故障などにより不遇の時間を過ごしたとはいえ、大学4年間で185センチ、90キロ。ストレートは150キロと、顕著なほど逞しくなった。
ドラフト後、渋谷は大竹から電話で指名の報告を受けた。
「頑張れよ」
短く激励の言葉を贈った渋谷の感情には、安堵と達成感が同居していた。
「結果的に、大竹が選んだ道は正しかった」
これが、ピッチャー・大竹風雅としてのエピソードゼロ――。
ソフトバンクで“覚醒”なるか
素質を開花させた高校の指導者は、教え子のプロでの覚醒に想いを馳せる。
「先発なのか中継ぎや抑えになるのか、プロでどこを任されるかわかりませんけど、見ていてワクワクするピッチャーになってほしいですね。150キロを超える真っすぐで、闘志をむき出しに投げる姿を見せてほしい」
育成出身の石川柊太に千賀滉大。若手でも泉圭輔、杉山一樹、古谷優人と、大竹が入団した球団は150キロオーバーの叩き上げがひしめく、「育成のソフトバンク」である。
プロでベールを脱ぐ。
大竹はきっと、恩師が望む衝撃を与える。