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「もう時間がない」「助けて!」…東京パラのアフガン選手が体験した“48時間の脱出劇”〈史上最大の救出作戦〉 

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田村崇仁

田村崇仁Takahito Tamura

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posted2021/10/01 17:03

「もう時間がない」「助けて!」…東京パラのアフガン選手が体験した“48時間の脱出劇”〈史上最大の救出作戦〉<Number Web> photograph by AFLO

アフガニスタンのパラ代表2選手が閉会式を並んで歩く。出場までには“壮絶なドラマ”があった

 一方でアフガンの空港はカブール陥落後、大混乱に陥っていた。数千人規模の国外退避希望者が殺到し、離陸する米軍機にしがみついて亡くなる人も相次いでいた。

 タリバンが仕掛けた地雷で左前腕を失った陸上男子ホサイン・ラスーリ(26)とフダダディは支援者の後押しで空路脱出を図った。しかし、カブール空港入りを2度も拒否された。アフガンの女性アスリートたちの間では、タリバンが「若く発言力のある女性」を見つけ出して脅迫するのではないかという危機感も強まっていた。

「もう時間がない」緊迫の48時間

 決死の救出作戦は携帯電話の衛星利用測位システム(GPS)を共有しながらリモート(遠隔操作)で十数カ所あるゲートから脱出に誘導する展開を試みた。

 空港周辺はタリバン戦闘員が複数の検問所を設けている。SNS上では群衆に威嚇発砲したり、追い回したりする映像が拡散していたように、空港に近づくだけでも被害に遭うリスクも伴った。

「至急連絡を」

「位置は確認できた。リスクが高まっている」

 通信アプリ「WhatsApp」を使った支援者グループと2選手の空港内での極秘のやり取りを見ると、今でも切迫感が伝わってくる。

 8月22日深夜。

「もう時間がない」

 焦燥感が募る中、2選手には支援者グループと一度は連絡が途絶える事態に陥った。しかし、そのピンチを脱して、カオスと化した群衆をかき分けて懸命に前進した。指定ゲートを間違えて、疲労困憊で自信も喪失し「助けて!」とSOSを発信したこともあった。

 群衆はパニック状態に陥り、踏みつけられたり心臓発作を起こしたりして死亡するケースも相次ぐなど、空港内は混沌とした状況にあった。2選手は金銭や重要書類は服の中に隠し、監視するタリバンの目を盗んでゲートを見つけたらスカーフに触れて本人確認の合図をするよう指示が出た。

【次ページ】 あと少し遅れていたら……

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