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「もう時間がない」「助けて!」…東京パラのアフガン選手が体験した“48時間の脱出劇”〈史上最大の救出作戦〉

posted2021/10/01 17:03

 
「もう時間がない」「助けて!」…東京パラのアフガン選手が体験した“48時間の脱出劇”〈史上最大の救出作戦〉<Number Web> photograph by AFLO

アフガニスタンのパラ代表2選手が閉会式を並んで歩く。出場までには“壮絶なドラマ”があった

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田村崇仁

田村崇仁Takahito Tamura

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 普段は牧歌的でフレンドリーな国際パラリンピック委員会(IPC)が、その日ばかりは異様な緊迫感に満ちていた。電話やメールをしても梨のつぶて。8月28日、イスラム主義組織タリバンの政権奪取で混乱するアフガニスタンの2選手が東京パラリンピック出場のため極秘裏に羽田空港に到着したのだった。

アフガニスタンから東京へ「史上最大の救出作戦」

 その4日前の東京パラ開会式。アフガニスタンは政情悪化で一度は参加断念と公表され、160超の国と地域が参加した入場行進では、ボランティアがアフガン国旗を掲げる特別対応で「連帯と平和」の意思が示された。だが、IPCはオーストラリアやフランスなど複数の政府や国際機関の支援と水面下で進んでいた救出の動きを受け、選手団を東京大会に迎える「わずかな希望」(アンドリュー・パーソンズ会長)を捨てていなかった。

「24時間、一睡もできなかった」と苦笑するIPCのクレイグ・スペンス広報部長は、映画さながらの脱出劇を「史上最大の救出作戦」と名付けた。「選手や家族の人命最優先」を理由に救出作戦の詳細は非公表とされたが、そこには壮絶なドラマがあった。

パラ開幕1週間前に届いた“ビデオメッセージ”

「私にはアフガン女性の代表として大会に参加する意思がある。どうか救いの手を差し伸べてください」――。

 テコンドー女子代表のザキア・フダダディ(当時22)が首都カブールの潜伏先から身の危険覚悟で窮状を訴えるビデオメッセージを発表したのは8月17日だった。パラ開幕まであと1週間、タリバンが実権を掌握した2日後だ。

 1990年代後半からのタリバン政権下では、女性は労働や教育に加えてスポーツ参加も禁止された。外に出ることもままならないフダダディが屋内で撮影したこの訴えにスポーツ界を中心とした国際支援の輪が広がった。

 オーストラリアの公共放送ABCによると、カナダの元五輪競泳選手で弁護士のニッキ・ドライデンが「特別チーム」の司令塔役になって救出計画を主導したという。ビデオメッセージが公開された翌日には作戦会議が始まった。国際プロサッカー選手会が協力し、オーストラリアの元サッカー代表主将で人権問題に取り組むクレイグ・フォスター、車いすマラソン金メダリストのカート・ファーンリーらも賛同し、地元オーストラリア政府に緊急ビザの発給や人権センターとの折衝を働き掛けた。

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