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3歳で全盲も「カズを“見る”のは大好きだった」ブラジルのブラインドサッカー初代10番が語る《相手の“聴覚すら奪う”浮き球パス》の極意とは
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byGetty Images
posted2021/09/04 11:02
5人制のブラインドサッカーでパラリンピック4連覇、いまだ無敗を誇るブラジル。その強さの源とは?
MS:右利きだが左サイドのMFで、ドリブルとパスが得意。カットインして右足でシュートを決めるのが得点パターンだった。
浮き球のパスは文字通りの”秘技”
――フットボールのプロ選手でも、簡単なパスの受け渡しをしばしば失敗します。パスの出し手も受け手も全く目が見えないブラインドサッカーで、どうすればうまくパスをつなげるのですか?
MS:そもそも、我々視覚障害者は、長年、聴覚を研ぎ澄ましており、音や気配によって周囲の状況を察知する能力に長けている。加えて、ブラインドサッカーではボールが動くと音がするし、味方選手やガイド(コーラー)とのコミュニケーションを通して、今、ボールがどこにあるか、どこへ向かっているのか、自分の周囲にはどこに誰がいるのかがかなりの程度わかるんだ。さらに、個々の選手が得た情報をチームメイトと共有する。
現役時代、私はパスを出すのが得意だったが、その中でも“秘技”があった。浮き球のパスだ。ボールがコートに弾むと音がするが、空中にあるとほとんど音がしない。だから、敵の選手に悟られずにパスを通すことができる。チームメイトに浮き球のパスを出す練習を繰り返した。パスを出す前後に自分たちだけがわかる言葉を叫んで、相手チームを出し抜いたりもした(笑)。
目が見えなくなったくらいではフットボールを諦めない
――それはすごいですね。となると、テクニックだけではなく、連携が極めて重要になってきますね。
MS:その通り。ブラジル代表が強いのは、同じ選手がクラブでも代表でも長年一緒にプレーしているから。たとえば、今の代表の主力選手の多くが同じクラブでプレーしており、2016年大会から今大会へは10人中2人しか入れ替わっていない。
コートが狭く、スタミナやスピードが落ちてもプレーは可能だから、かなり年を取ってもプレーできる。現代表のDFダミアン・ラモスは46歳で、これが4度目のパラリンピックだ。
――現役引退後の活動は?
MS:1987年にパラナ連邦大学に再入学して体育学を修め、ブラジル初の全盲の体育教師となって盲学校などで教えた。現代表のパラナは、私の教え子の1人だ。
また、パラリンピックの2004、2008年、2016年の大会にブラインドサッカーのブラジル代表のコーディネーターや役員として参加した。
――ブラジルのブラインドサッカーの強さの理由は、他にもありますか?