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「それでも、スタートしたのは…」ハミルトンが“金儲け最優先”を痛烈批判 “雨中の強行”2周でレース成立のベルギーGP舞台裏
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2021/09/02 11:02
セーフティカーに先導されたまま、予選順位通りの隊列で合計3周を走ってレース終了。視界の悪さは写真を見ての通りだった
「路面コンディション自体は、(レースを)やれないほどではありませんでした。問題は雨量というより前車の水しぶきで、前がまったく見えませんでした。コーナーがどこにあるかも勘で走るような感じだし、前のクルマが雨天時に点灯しているテールランプも5メートル以上離れると見えないような状態だったので、(レース中止は)仕方がなかったと思います」
F1マシンはほかのカテゴリーに比べて強力なダウンフォースがあるため、水しぶきが後方へ霧状になって大きく跳ね上がり、巨大なウインドスクリーンとなる。その状況でもし前方で何かアクシデントが起こると、事故車を避けることができず、大事故につながる可能性がある。したがって、レース中止という判断自体は、角田だけでなく、ほかの多くのドライバーが同じ意見だった。
しかし、レース後、多くのドライバーに笑顔が見られなかったのは、事実上レースをしていないにもかかわらず、レースが成立したためだった。F1のレギュレーションでは、先頭の車両が2周回以上すれば、レースが成立することになっており、再開後の午後6時17分にセーフティカー先導でコースインし、その後2周した瞬間に今年のベルギーGPのレースは成立していた。ただし、当初予定距離の75%を走破していないため、レギュレーションに則り、入賞者に与えられるポイントは半分となる。
レース強行の是非
これに対して、3位フィニッシュしたルイス・ハミルトン(メルセデス)は「再開する前から、レースができる見込みはなかったのだから、今日はレースをスタートさせるべきではなかった」と言い、「それでも、スタートしたのは、みんなもわかっているよね」と、F1の金儲けを最優先した商業主義的な判断を痛烈に批判した。
F1は世界最高のモータースポーツを開催することを条件に、各グランプリ主催者から高額な開催権料を支払われる契約を締結している。したがって、もし中止すれば、その開催権料を手にすることができなくなってしまうため、再開できないことを知りつつ、セーフティカー先導で3周だけ走ったのではないかという疑念が、ハミルトンの胸中にあったのではないか。
だが、FIAのレースディレクターであるマイケル・マシは、その主張を完全に否定した。