ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
「俺は目に指を入れて…」クマと生身で対戦したマサ斎藤、藤原喜明らが味わった“恐怖体験”とは《プロレスラーvs熊》
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph by(左)Getty Images、(右)AFLO
posted2021/09/02 11:01
(左)グリズリー、(右)かつて熊と対戦経験のあるプロレスラーのマサ斎藤
「クマとはフロリダでやったんだけど、プロモーターから何か契約書を渡されたからロクに読みもせずにサインしたら、それがクマと闘う契約書だったんだよ。ハメられたよな~(笑)。
相手はレスリング・ベアといって、しっかり調教されていて、両足で立てるし、ロックアップからフライングメイヤーとかやるからね。ちゃんとプロレスの“型”を仕込んであるんだよ。
でも、凄い力だよ。もちろんツメは切ってあって、噛まれないようにクマにマスクさせてるんだけど、たまにマスクがズレるんだよ。そのときは焦るよな。俺は一回、ケツを噛まれてるからさ(笑)」
ミスター・ヒトが語るのと同様に、しっかりとプロレスを仕込まれたクマだったようだ。マサの場合、このクマと2度対戦している。
「人間vs.クマのプロレスっていうのは、アメリカじゃあ盛り上がるんだよ。普通、観客は同じ人間を応援すると思うだろ? でも実際はクマを応援するんだよ。俺はヒールだからさ、“悪いジャパニーズ”がクマにこらしめられて一件落着ってことよ(笑)。
でも、とにかくクマは臭くてまいったよ。終わったあと、シャワー室で体を洗っても、クマの臭いがとれない。いろんなタイプのレスラーとやってきたけど、クマとだけは二度と闘いたくないな」
「動物虐待だ」との抗議も…
人間とクマとのプロレスというアトラクションは、80年代に入るとほとんど見られなくなったが、90年代半ば日本で行われようとしたこともあった。旗揚げしたばかりの大日本プロレスが、グレート小鹿社長(当時)の発案で、レスリング・ベアをアメリカから招聘。人間vs.クマの“異生物格闘技”を目玉として全国を巡業する予定だったが、動物愛護を語る人たちからの「動物虐待だ」との抗議などもあり、招聘を断念している。
じつはグレート小鹿自身もアメリカでクマと対戦したことがあり、のちに当時のことを次のように語っていた。
「人間vs.クマっていうのはアメリカでは昔から行なわれていて、『虐待なんてとんでもない』って説明したんだけどね。俺が闘ったことがあるクマはコーヒー牛乳が好きでね。俺も最初はビビッてたんだけど、そのクマはポンと座ると両手を出すんだよ。そうするとレフェリーがクマの手のひらにコーヒー牛乳を入れてやって、それを両手でグーッと飲む。その仕草がかわいいんだよな。だから動物虐待どころか、動物とのふれあいですよ(笑)。
俺もクマとなんかやりたくなかったけど、プロモーターに『ギャラを倍出す』って言われて、やっちゃったんだよな(笑)。試合では、クマが俺に近づいてきたとき、怖いからさ、俺は目に指を入れたんだよ。そしたらクマが試合しないでロビーまで逃げちゃってさ、そのまま帰ってこないから、クマのリングアウト負け(笑)。
そのあともおもしろいんだよ。試合後、俺がシャワーを浴びてたらさ、誰かが俺の背中を撫でてくるんだよ。それで振り返ってみたらクマ(笑)。俺が目潰しなんかやったもんだから、レフェリーが冗談で連れてきたんだね。で、熊っていうのは温かいお湯が好きで、いっしょにシャワーを浴びましたよ」
もし大日本プロレスが、レスリング・ベアを招聘していたら、この小鹿vsクマの“再戦”や、ケンドー・ナガサキvs.クマなどが実現していたという。