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《卓球》元相棒の本音「悔しいけど、美誠は水谷さんと組んだ方がいい」なぜ伊藤美誠20歳と水谷隼32歳は相性抜群なのか

posted2021/07/28 17:30

 
《卓球》元相棒の本音「悔しいけど、美誠は水谷さんと組んだ方がいい」なぜ伊藤美誠20歳と水谷隼32歳は相性抜群なのか<Number Web> photograph by JIJI PRESS

混合ダブルス決勝で中国の許昕・劉詩雯組を破った水谷隼・伊藤美誠組。試合後のハグも話題になった

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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 中国語で卓球のことを「兵兵球」と書くと知ったのは、2008年の北京オリンピックの取材の時である。

 兵士が向き合いながら戦うのが卓球なのだ。

 中国において卓球は剣術のイメージが強いと確信したのは、福原愛に取材をしたときである(Number795号)。

 福原曰く、日本では「スマッシュ」の種類を表現する言葉は限られるが、中国では10段階刻みで、30から120くらいまでの表現があるという。

「ディエン」は表ソフトラバーでのスマッシュで、30パーセントほどの力で打つ。

「ファリー」は70パーセントで、コースをコントロールしたスマッシュ。

「コウシャ」は100パーセントで、一撃で仕留める。

 では、120パーセント、マックスで力を発揮する単語はなにかと聞けば、こんな漢字を書くという。

 発死力。

 相手を死に追いやるスマッシュ。

 ちなみにバックハンドスマッシュは「抜刀」。腰に位置する剣を抜く鮮やかなイメージが浮かぶ。

 中国の卓球は、剣を持ったスポーツなのだ。

「32個の金メダルのうち28個が中国」

 東京オリンピック混合ダブルス決勝、水谷隼・伊藤美誠組の相手である許昕・劉詩雯組のふたりは、剣術家のイメージにぴったりの選手だ。

 サウスポーの許昕は、大きな青龍刀さえ操りそうなダイナミックなプレーを展開する。一方で劉詩雯は表情をほとんど変えず、安定性が持ち味。どんな攻撃を仕掛けられても、巧みに受ける柔軟性を持ち、ミスも少ない。

 ダブルスに限らず、中国卓球の特徴は電撃戦である。序盤に相手に対して圧をかけ、ゲームを連取し、相手から気を奪っていく。

 さらには、1988年のソウル大会で卓球がオリンピックの正式競技として採用されて以来、2016年リオ大会までの32個の金メダルのうち、28個を獲得してきている歴史も相手への圧力となる。

 そして7月26日の試合も、同じような展開になった。許昕・劉詩雯組が2ゲーム連取した時は、このままストレートで勝つのだろうと思った。

 ところが――。

【次ページ】 中国の剣術vs.伊藤美誠の「居合い」

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