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「美誠が100%なら誰にも負けない」伊藤美誠を中学から支える松崎コーチが語ったトレーニングと強さの秘密《初の金メダル》
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph bySTARTS CORPORATION
posted2021/07/27 17:05
伊藤美誠、母・美乃りさん、松崎太佑コーチ。松崎が伊藤の指導をするようになって7年、分厚い信頼関係が築かれている。
100%の力が出れば誰にも負けない。
世界ランキングは、選手の力を示すバロメーターでもある。昨年6月の香港オープンから今年3月のカタールオープンまでワールドツアー13大会における女子シングルスにおける伊藤の戦績は、優勝2回、準優勝4回、ベスト4が3回と抜群の安定感と強さを見せている。
――9大会中7大会で決勝進出は、伊藤選手の強さを証明していると思います。
「そうですね。そこは僕もちょっとびっくりしています。美誠の卓球は、格上に勝つチャンスがあるけど、格下に取りこぼしもあるというスタイルなんです。実際、中国人以外の選手や相性の悪い選手と対戦すると、自分の実力を発揮できずに負けてしまうことがよくありました。
でもリオ五輪以降、負けない卓球ではなく勝つ卓球の練習をしているせいか、そういう負けが減ってきているんです。中国の選手は基礎力がすごく高いので、相性とか関係なしに負けないんですけど、美誠もそういうところにだいぶ近づいてきているのかなと思いますね」
――そういう強さを証明する印象的な試合はありましたか。
「今年2月のハンガリーオープンの決勝で、チャイニーズ・タイペイの鄭怡静選手に勝った試合です。2-3とゲームをリードされて、3-7で負けていたんです。それまでの美誠は、劣勢になると自分から崩れて負けてしまう場面が多かったんです。でもその時は、劣勢から自分が持っているものをしっかりと出し切って逆転勝ちをした。明らかに今までと違う勝ち方でしたし、試合での修正力、そして劣勢での発想力が前よりも一段階、上がったなと思いましたね」
――個人的にはカタールオープン準決勝の丁寧選手との試合も印象深かったです。
「あの試合は出来すぎでしたね(笑)。ちょうど1カ月前のドイツオープンでは1-4で簡単に負けていたんです。でも、それから1カ月後の試合でメンタル的にすっきりして、負けてもともとという気持ちで挑んだと思うんですが、美誠自身の調子がすごく良くて、練習でやってきたことがそのまま発揮できた。それが4-0という展開になって、ちょっとびっくりしました」
――ハマった時の強さ、追い込まれた時に勝てる強さ、両方の力がついてきたということですね。
「美誠が100%の実力を発揮したら、今はたぶん誰にも負けないぐらいの実力はあります。でも、試合になると相手も美誠の弱点を突いて来たり、100%を出させないように対策してきます。80%や40%の力しか出せない時もありますが、理想は実力の半分でも試合に勝てる選手。最近の美誠はそういう選手になりつつありますね」
――内容が悪くても勝てる選手。
「リオ五輪以降、負けない卓球の練習をするのではなく、100%の実力のマックスをどんどん上げていき、自分の力が発揮できない時でも相手の力よりも上にいくという考え方で強化しています。実際、リオ五輪の時と比べると動きが全然違う。4年間でこんなに強くなったんだという感じではなく、4年前はこんなに弱かったんだと美誠と当時のビデオを見て笑っていますが、強化が確実に実を結びつつあります」