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「田中碧がわざわざドイツ2部に…しかもなぜレンタル?」は的外れです…欧州サッカーの日本人監督が明かす《移籍最新事情》
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byGetty Images
posted2021/07/27 17:00
ドイツ2部のデュッセルドルフに移籍した田中碧(22歳)。東京五輪代表でも遠藤航とボランチを組み安定した活躍を見せている
Jリーグのクラブから買い取りオプションを設定してヨーロッパのクラブにレンタルし、買い取りオプション行使後も“共同保有権”を維持し、次のクラブに移籍した際の移籍金の一部を受け取るというもの。
長友佑都がFC東京からチェゼーナにレンタル移籍し、インテルへステップアップした際、このやり方が採用されたと言われている。
「この夏、田中碧選手の川崎フロンターレからフォルトゥナ・デュッセルドルフへのレンタル移籍が発表されたとき、日本の一部の識者からは『なぜJリーグを代表する若手が、ドイツ2部にレンタルなんだ』という声があがったと思います。
しかし先ほど言ったように、コロナ禍でドイツのクラブも減収に苦しんでいる。ドイツ2部のシャルケ、ニュルンベルク、ザンクトパウリなど1部復帰を目指すクラブのスポーツディレクターと話しても『フリーレンタルか違約金ゼロの移籍しか基本的に考えていない』と言っていた。
中途半端にドイツ1部の下位クラブへ行くと、残留争いに巻き込まれて守備に追われる。そういう意味で、田中碧選手の選択は素晴らしいと思います。
Jリーグからレンタル料と買い取りオプションを安い金額に設定してヨーロッパへ行き、その代わりにフューチャーセールで利益を分配するやり方が、今のヨーロッパ市場に合わせた現実的な方法だと思います」
移籍市場に選手が余っている状態
今、ヨーロッパの多くのクラブではリストラが進んでいるという。
「コロナ禍前であれば、ドイツ1部ならレンタル料2000万円、買い取りオプション2億円といっても、そこまで大きな投資ではなかった。でも今は違う。
ドイツのクラブではアカデミーで働く指導者の数を減らしたり、バス運転手や分析官の数を減らしたり、いわゆるリストラが進んでいる。
選手の数も減らそうとしている。つまり市場に選手が余ってしまっているんです。さらに南米や東欧からの売り込みに加えて、アフリカと北米からの売り込みが増えている。日本人選手の欧州移籍のハードルは間違いなく上がっています。
そういう現実の中で、もしJリーグのクラブが高いレンタル料を設定したり、満額の育成補償金を要求したりすると、『それなら他国の選手を取るよ』となってしまうんです」
Jリーグの立場になればそもそも人材を流失させたくないし、若手がどうしても移籍したいのなら、できるだけ大きな利益を得たいと考えるのは当然だ。
だが、目先の利益にこだわっていたら時代に取り残される。ヨーロッパで流行しつつある「フューチャーセール」という長期的な投資を理解すべきだ。
ピッチ内もピッチ外も、情報が武器になる。
ヨーロッパサッカーの最新の知見が入ってくるという点でも、「監督界の欧州組」の存在はとてつもなく大きな意味がある。
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