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「田中碧がわざわざドイツ2部に…しかもなぜレンタル?」は的外れです…欧州サッカーの日本人監督が明かす《移籍最新事情》
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byGetty Images
posted2021/07/27 17:00
ドイツ2部のデュッセルドルフに移籍した田中碧(22歳)。東京五輪代表でも遠藤航とボランチを組み安定した活躍を見せている
「もちろん僕自身、日本人選手を育てたいと考えているし、クラブ側からも日本人選手を2、3人獲得していいと言われています。しかし現実に獲得するとなると、いくつかの問題に突き当たるんです」
モラスのもとには、日本からだけでなく、世界中から売り込みが殺到しているという。
「日本からも十数名の話を頂いたんですが、それ以外からの売り込みもすごく多い。たとえばドイツのレバークーゼンにはU-23のチームがなく、U-19からトップに昇格できなかった選手の受け皿がない。そこで『インスブルックにいかがですか?』と連絡が来た。
オーストリアの名門レッドブル・ザルツブルクからも、U-23に上がれなかった選手の売り込みがありました。新しい兆候としては、アフリカや北中米からの売り込み。ナイジェリアのアンダー年代の代表選手や、カナダのアンダー年代の代表選手の売り込みがありました。
つまり日本人選手は、ヨーロッパ大陸の若者に加え、アフリカ、北中米の若者と競争しなければならないんです」
「英語が話せない」「じゃあいらない」
売り込みが殺到し、尋常ではない数の競争相手がいる――。こういう国際競争でネックになるのが、語学力の乏しさである。
「僕との会話は日本語で大丈夫ですが、チームメイトやスタッフとの意思疎通を考えると、英語ができた方が圧倒的に有利。
ドイツやオーストリアのクラブに日本人選手を紹介するときは、必ず『英語を話せるか?』と聞かれる。『あまり話せない』と伝えると、『じゃあいらない』となってしまう。
実際、J1のあるクラブの主力選手をオーストリア1部のクラブが取ろうとした際、英会話が厳しいということで破談になりました」
「日本人は安くないよね」
そして何より問題となるのが「育成補償金」(トレーニングコンペンセーション)だ。
FIFAのルールでは23歳以下の移籍の際、獲得する側のクラブは、その選手が12歳から23歳までの間に在籍したクラブに対して、「育成補償金」を払わなければならない。育成の対価をちゃんと払うという考えに基づいている。たとえ移籍金がゼロでも、若手獲得の際にはお金が動くのだ。
香川真司がセレッソ大阪からドルトムントへ移籍した際、移籍金はゼロだったが、ドルトムントは「育成補償金」として35万ユーロ(約4500万円)をセレッソに支払った(香川はセレッソに16歳から21歳まで在籍)。
たかが数千万円という印象を受けるかもしれないが、スイスやオーストリアといった「ステップアップリーグ」の小クラブには大きな金額である。
これが移籍の障壁にならないように、アフリカや北中米のクラブは「育成補償金はいりません」と申し出るのだという。