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登録人数が日本の3分の1でも…スイスは“W杯とEUROでフランス、ベルギーに並ぶ実績” 参考になる強化育成のポイントとは
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/06/28 17:06
国際大会で手堅く決勝トーナメント進出を果たす印象があるスイスだが、その強化育成は興味深い
筆者は09年にドイツサッカー協会公認A級ライセンスを取得したが、同期の1人がスイス2部リーグのシャフハウゼンというクラブの育成でストライカーコーチに就任していたことを思い出す。彼のようなコーチが、育成チームのストライカーに、得点チャンスを作り、生かすために必要なスキルを集中的に指導している。
そうした一連のプロジェクトを作り上げた理由として、プリンスは「スイス国内でも質の高い育成を受けられると選手に感じてもらうためだ」と言っていた。
「特に大事なポイントが……」
欧州トップクラスのクラブは世界中にスカウトを派遣している。代理人からの売り込みも多い。そうしたルートでステップアップのチャンスをつかもうとすること自体は選手の権利だ。でも、選手の成長にとって何が一番いいかを考えたときに、早すぎる決断が成長の障害にしかならない事例は、世界中に山ほどあるわけだ。
「選手が最高峰の舞台で戦っていけるかどうかは様々なファクターに左右されます。特に大事なポイントが精神的、身体的健康です。健康上の問題は非常に早い段階での選手生活の終わりを意味することもあります。健康で、サッカーに集中できることが大事なのです。この点は選手個人のみならず、両親、トレーナーにとっても大事なポイントです」
これはスイスサッカー協会がタレント育成の条項で指摘しているポイントで、そこには育成に携わる人間にとってとても大事なことがまとめられている。
シャチリ、ジャカらが続々と育った
そうした環境で育まれてきたスイスの代表チームは、若手、中堅、ベテランのバランスがとてもいい。黄金世代とされるジェルダン・シャチリ、グラニト・ジャカ、リカルド・ロドリゲス、ファビアン・シェア、ハリス・セフェロビッチなどは、みなサッカー選手でベスト年齢とされる28~29歳。加えて、マヌエル・アカンジ、デニス・ザカリア、ニコ・エルベディ、ブレール・エンボロといった少し若い選手もブンデスリーガで経験豊富だ。
グループリーグではチームパフォーマンスが上がらず、代表OBやメディアから批判の声もあがってはいたが、ブラディミル・ペトコビッチ監督の選手への信頼は絶大だ。
「セフェロビッチやシャチリ、他の選手もそうだが、彼らの才能に疑念を持ったことは一度もない。私はずっと彼らを信頼し続けている」
勝利を義務づけられたグループリーグ最終節トルコ戦を前に、ペトコビッチは地元紙にスイス国民に向けて情熱的なメッセージを送った。