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酷暑“ドーハの勝利”で負った深刻なダメージ…「悔しい気持ちもありますが」五輪代表を辞退した競歩・鈴木雄介の無念
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2021/06/27 11:00
深夜も気温が30度を上回ったドーハの地で執念の歩みを見せた鈴木。今年5月の大会にもエントリーしていたが、欠場するなどダメージは大きかった
同年の世界選手権は、大会を前にして恥骨炎を患い、強行出場したレースでは胃炎を起こし、棄権に終わった。
年が明けてリオデジャネイロ五輪イヤーになっても故障に苦しんだ。股関節の痛みが治らず、16年3月の五輪最終代表選考会の全日本競歩能美大会を欠場し、2大会続けての五輪出場はかなわなかった。
東京五輪に向けても、調整はスムースには進まなかった。2019年3月の全日本競歩能美大会で4位に終わり、20kmでの世界選手権出場は潰えた。
だが、そこであきらめなかった。20kmを主戦場としていた鈴木は4月の全日本選手権の50kmに挑み、それが奏功した。優勝して世界選手権の日本代表をつかみ、それが世界選手権優勝につながった。
鈴木は長らくオリンピックと格闘してきた。種目を変えてでも出場の可能性を見出そうとし、一度は扉を開いた。それでも、再び大舞台に立つことは叶わなかった。積年の思いゆえに葛藤もあっただろう。
ただ、競技人生が終わるわけではない。
東京五輪の先に鈴木が見据えるもの
50km競歩がオリンピックで実施されるのは東京が最後になるが、競歩自体はオリンピック競技として続いていく。
鈴木がいま見据えるのは、来年の世界選手権だ。
鈴木自身、こうコメントしている。
「今後は、コンディションを整えながら、徐々に試合に復帰していければと考えています。来年の世界陸上、そして次回のオリンピックでは金メダルを目指せるように頑張りたいと思いますので、今後もご支援・ご声援よろしくお願いいたします」
気持ちが折れない限り、競技人生は続いていく。かなえたい目標へと向かっていくことができる。
そして鈴木は、発表したコメントの中で日本代表選手への気持ちをつづっている。
「悔しい気持ちもありますが、日本競歩チームの一員として、出場する選手を応援していきたいと思います」
土壇場まで引っ張らずに代表辞退を決めたのには、鈴木の代わりに出場する勝木隼人の準備期間を考慮してのことではないか。
その言葉は、33歳の今日まで長年にわたって日本競歩を牽引し、その地位向上を考えてきた第一人者の自負に満ちていた。