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テニス界の伝説・グラフが52歳に 絶対女王に憧れ続けた“ある青年”が「12年越しの片想い」を実らせるまで
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2021/06/14 11:01
本日6月14日はグラフの誕生日。夫はキャリアゴールデンスラムを達成した元テニス選手のアンドレ・アガシである
1987年の全仏オープンでグランドスラムの初優勝を遂げたセンセーショナルな17歳に、アガシはずっと憧れを抱いていたそうだ。バンビのように軽やかなフットワークと、柔らかなウェーブのかかったブロンド、儚さと剛健さが混在する不思議な魅力を放つ同世代のプリンセスと「仲良くなりたい」と願っていた。
そして翌日、芝では圧倒的有利とされたビッグサーバーのゴラン・イワニセビッチを破り、誰も予期せぬウィンブルドン・チャンピオンとなったのだ。
アガシは自叙伝『Open』の中で、こう語っている。
「ダンスフロアで彼女の手をとり、クルリとさせるのが待ち遠しくてしかたなかった。踊り方はわからなかったが、気にしていなかった」
しかし、ダンスパーティー会場に到着するやいなや、チャンピオンのダンスは中止になったと知らされる。
アガシの猛アプローチも「返事はこなかった」
のちにグラフは冗談まじりにこう話している。
「前例のないことだったらしく、キャンセルしてもらうのは本当に大変だった。でも私は正式なダンスをどう踊ればいいのか習ったこともないし、あまり楽しみじゃなかったの」
そうはいっても、グラフがウィンブルドンで優勝するのはそのとき4度目である。本当はそんな理由でなかったことは、アガシの自叙伝での次のような記述からもある程度想像がつく。
「僕は以前から、彼女の控えめな気品、生まれ持った美しさに驚愕し、圧倒されていた。91年の全仏オープンのあとにはメッセージも送ったが、返事はこなかった」
タキシードで紳士を気取っても、首から上はピアスに長髪(当時はまだそれがウィッグだったことは知られていなかった)というラスベガス生まれの異端児が自分に好意を寄せていることを知った上でのダンスは、「シャイで控えめでまじめ」な23歳のグラフにはどうしても受け入れられないことだったのだろうか。バーテルズとの交際が始まったのがこの頃だったことも無関係でないかもしれない。
再び始まった熱烈なアプローチ「花束を贈り…」
月日は流れ、自身の狂信的なファンによるセレス襲撃事件や、金銭管理を全て任せていた父親の巨額の脱税事件など、グラフは数々の苦難を乗り越えていた。アガシのほうは1993年から交際していた5歳年上のシールズと97年に結婚。しかし2年ともたずに結婚生活は破綻した。