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全体練習もまだ参加していないのに…突然告げられた「今年いっぱいで廃部」創設55年コカ・コーラの“最後の新人”野田響の今
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野村周平(朝日新聞スポーツ部)Shuhei Nomura
photograph byCoca-Cola Red Sparks
posted2021/06/11 17:01
移籍先を模索する日々を過ごしている野田響(23歳)。憧れのコカ・コーラでのプレーは叶わなかったが、自らの可能性を信じて動き出していた
高みを見すえ、6学年上の流らが活躍した帝京大に進んだ。
当初は才能あふれる同級生らとのセンスやスキルの差に劣等感を抱いた。それでも気持ちを腐らせず、自分の強みは何か考えた。出した結論は「ボールを持ってぶつかることだけは外国人選手にも負けたくない」。
環境に慣れた3年夏のジュニア選手権は今も忘れられない。ボールキャリアとしてグラウンドを走り回り、その後の関東大学対抗戦や大学選手権出場へとつなげた。岩出雅之監督は「4年になったら主力になれる」と、飛躍を楽しみにしていたと振り返る。
しかし、大学最後の夏に右足の甲を骨折。その後もケガを繰り返し、不完全燃焼のまま大学ラグビーを終えた。サイズと将来性を見込まれ、コカ・コーラの一員になったが、リハビリ中でまだ全体練習に加わっていなかった。そこに、チームがなくなるというニュースが飛び込んできた。
こういう時だからこそ、ポジティブに
向井昭吾部長兼監督らとの面談では、ラグビーを続けるために移籍したいと希望した。向井監督も全面的なサポートを約束してくれた。モヤモヤは少し晴れた。
「現実は変わらない。くよくよしていても仕方がない」
コカ・コーラでの実績はゼロ。でも、できることから積み重ねよう。まずはリハビリ。そして、1人でもできる筋力トレーニングやランを欠かさず続けようと決めた。
周りも、チームでたった1人の新人を気にかけてくれた。帝京大の2学年上にあたり、気心知れたプロップ長谷川寛太は、いつだって親身に相談にのってくれた。サンウルブズの「廃部」を経験したSH木村貴大は、個人練習の後で苦しい時の立ち振る舞い方を教えてくれた。
「人として、どうありたいのか、どうなりたいのか。誰かに慰めてもらおうと、ネガティブな発言をSNSでしても状況は変わらないよ。こういう時だからこそ、ポジティブな発信をしよう」
不安を口に出していた野田の姿勢は変わった。廃部になるからといって、マイナスのことばかりじゃない。コカ・コーラはなくなっても、新たなチャンスは自分の前に広がっている。ラグビー経験や実績は足りなくても、伸びしろは周りより大きい。そんな風に自分の可能性を探せるようになった。自分たちだって苦しいのに、笑顔でサポートしてくれるコカ・コーラの仲間たちのおかげだった。
「今は自分が選手としてどれくらいまでやれるのか、限界を見てみたい気持ちです」