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田中希実に敗れた悔しさから低迷した20歳 “すべての駅伝で区間賞”の廣中璃梨佳が五輪切符を手にするまで
posted2021/06/07 06:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Asami Enomoto
大きなストライドと力強い腕の振りがトラックでひときわ目を引く。陸上女子長距離界のホープ・廣中璃梨佳(日本郵政グループ)が、5月3日に静岡で行なわれた日本選手権女子1万mを31分11秒75で制して、念願の東京五輪代表切符をつかんだ。
「最初から自分のレースを作って後半どれだけ踏ん張れるか。自分に勝つレースをしたいと思っていた」
口調に達成感がにじんでいた。
東京五輪参加標準記録(31分25秒00)の突破と順位の両方が必要な状況で会心の走りを見せた。前半は先頭でペースをつくり、中盤は安藤友香(ワコール)の後ろにピタリとつき、終盤は安藤と並走。そして、残り3周を切ったところで勝負に出てレースを制した。自在な展開力を披露しつつ、“自分にも相手にも勝つ”という覚悟がダイナミックなフォームからほとばしっていた。
中学生の頃から陸上ファンに広く知られる存在だった。都道府県対抗女子駅伝では中3から5年連続で区間賞を獲得し、社会人入りしてからも全日本実業団対抗女子駅伝で2年連続1区の区間賞。出場したすべての駅伝で区間賞という確かな実力と抜群の安定感がある。
6月下旬の日本選手権で5000mの代表切符を
昨年12月の日本選手権では第一目標の女子5000mで田中希実にラスト200mで離されて出場権を手にできず、悔しさに暮れた。年が明けてからもしばらくは気持ちと体調の両方が低迷し、思うように練習を積めなかったという。そんな時期に声を掛けてくれたのが、所属チームの先輩である東京五輪女子マラソン代表の鈴木亜由子。「今は焦る時じゃないよ。少しずつ走れるようになったら、ちゃんと戻ってくるから、自分のペースでできることをやっていたらいいと思う」。廣中は、「苦しかった時期はこの言葉に支えられながらやっていた」と感謝する。
次のターゲットは6月下旬の日本選手権で5000mの代表切符を獲得すること。'16年リオデジャネイロ五輪女子5000mと1万mで代表になった鈴木に続く決意だ。
「心掛けているのは自分らしくのびのびと走ること。その姿で感動や勇気を感じてもらえたらうれしい」
トレードマークの帽子を目で追えば、20歳のランナーの情熱がびんびんと伝わってくるはずだ。