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<現役最終戦に秘めた思い(16)>朝原宣治「走り終えてわかった『ありがとう』の意味」
posted2021/06/02 08:00
ラストラン後、北京銅メンバーの末續、塚原、高平や、為末大、福島千里ら仲間たちが高々と胴上げ
text by

鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
KYODO
2008.9.23
スーパー陸上
男子100m
成績
3位 10秒37
◇
朝原宣治は、観客席から自分に向けて、いくつもの声が飛んでいることに気づいた。
「ありがとう」
スタート前にそんな言葉をかけられることは、競技人生を見渡してもほとんど記憶になかった。
《競技をしてて、お礼を言われることはなかなかないので印象的でした。そのありがとうは、感動をありがとうなのか、それとも陸上界の進歩に対してなのか、どっちなんだろうなと考えていました》
2008年9月23日、等々力陸上競技場は夏の終わりを告げる淡い陽射しに照らされていた。セイコースーパー陸上のクライマックスとなる男子100m決勝――朝原にとって最後のレースが始まろうとしていた。
感動という意味においては、朝原はその1カ月前、たしかに多くの人々の心を揺り動かしていた。
その夏の北京で開催されたオリンピックの15日目、照明に光る国家体育場での4×100mリレー決勝で、朝原は塚原直貴-末續慎吾-高平慎士とつないだバトンを最後に託された。日本のアンカーとして疾走した末に3位でゴールを駆け抜けた(のちに優勝したジャマイカ代表選手のドーピング陽性が発覚し、銀メダルに繰り上げられた)。男子トラック種目初のメダル獲得を電光掲示板で確認すると、朝原は夜空にバトンを放り投げた。そのシーンは日本短距離界がつかんだ勝利の象徴となった。
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