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“セ・リーグなら活躍できる”…巨人・ウィーラーの快進撃を原辰徳監督と楽天・石井一久GMが“予感”できたワケ
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph bySankei Shimbun
posted2021/05/07 11:03
5月3日の広島戦で、森下から勝ち越しのソロ本塁打を放ち、ベンチで歓迎されるウィーラー
真っ直ぐ主体に力で押してくる投手が多いパ・リーグに対して、セ・リーグの投手は変化球を含めて相手の弱点をしっかりと突けるピッチングの精度を求める。何度も言うが、これが全てに当てはまるわけではないが、傾向としては明らかに両リーグの違いがそこにはある。
石井監督の目にはここ数年、真っ直ぐに対して力負けするウィーラーの姿があり、一方、原監督の目には変化球にもしっかり粘って拾えるウィーラーの姿があった。トレードを成立させた時点で、2人の当事者の間にはセ・リーグの野球にフィットできるウィーラー像というのが、ある程度、“予感”として刻まれていたことで、あのトレードは成立したということだったのである。
もちろんウィーラーが力のあるストレートを全く打てないという意味でもない。事実として昨年の日本シリーズでは、第2戦で石川柊太投手の真っ直ぐを弾き返して、シリーズで巨人唯一の一発となった右越え本塁打を放ってもいる。ただ、これも逆方向に放った技ありの一打で、力でねじ伏せて引っ張ってスタンドまで運んだホームランではなかったのも事実だった。
「彼は本当の意味でのパワーヒッターではないからね」
原監督は言う。
ウィーラー「右中間というのは自分の強み」
しかしそうやって逆方向へのバッティングや変化球への対応でまだまだ長打を打てる力はある。そういう意味ではパ・リーグよりもセ・リーグの方が活躍の場は広がるというのが、2人の張本人がトレードを成立させた背景だった。
そしてその期待に応えてウィーラーは、確かにセ・リーグで水を得た魚の如く、溌剌としたバッティングを見せているわけだ。
「しっかりとタイミングがとれている。右中間というのは自分の強みだし、そっちに打てているのは調子がいい証拠。7年間も日本にいるので、それはもう色々なピッチャーを見てきてタイミングを合わせるのがうまくなっていると思う」
本人がこう語るように3日の広島戦の決勝アーチは、森下暢仁投手の外角真っ直ぐを右中間席へ打ち込んだ。やはりウィーラーの技が光った一撃だった。
あのままパ・リーグにいたら、二軍で埋もれて今季は日本でプレーしていなかったかもしれない。トレードを決断した2人の張本人の慧眼。そのチャンスを生かし、コロナ禍や様々な困難を乗り越えた本人の力。その2つがあってウィーラーは生き返った。
この活躍は決してフロックではないということである。