猛牛のささやきBACK NUMBER
「何かやってくれそう」今年のT-岡田は勝負強い? 元ホームラン王を変えた“禅思考”とは
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKYODO
posted2021/04/24 06:00
4月22日西武戦、サヨナラ勝利を引き寄せる三塁打を放ったT-岡田。プロ16年目の頼れる兄貴がチームに活力を与えている
あの日は、T-岡田が打席に入る直前に、一度試合が終わりかけた。
9回裏2死一、二塁の場面で、5番・中川圭太に代わって代打に出たアダム・ジョーンズがゴロを打たされてしまった。西武・三塁手の佐藤龍世が二塁に送球し、アウトの判定でゲームセット。
しかし吉田正尚の代走に出ていた一塁ランナーの小田裕也は、俊足でチーム1の走塁技術を持つ。中嶋聡監督はリクエストを要求し、判定は「セーフ」と覆った。
ネクストバッターズサークルから見ていたT-岡田はセーフを確信していた。
リクエストの判定を待つこと、2分強。その間、次打者は考えすぎてしまったり、力が入りすぎてもおかしくない。実際、T-岡田も、「ここでホームランを打てば……」と欲が頭をもたげた。点差は3点。満塁弾なら一発逆転サヨナラである。本塁打王の血が騒いだ。
しかしそこで、客観的に見ているもう1人の自分が、その思考にストップをかけた。
「相手は絶対に、それだけはしないように、と思ってやってくる。とにかく、つなごう」
次打者の杉本に、「絶対つなぐから、任せたぞ」と声をかけて、打席に入った。
「落ち着いていましたね」とT-岡田は振り返った。
初球から振っていく。ボール球はしっかりと見極め、追い込まれてからは、わずかにバットを短く持ち、変化球に食らいついて粘った。そして7球目のストレートを、ライトポール際のフェンスまで運んで3人を迎え入れ、三塁ベース上で右拳を突き上げた。