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『羆撃ち久保俊治 狩猟教書』伝説の羆撃ちが明かす狩猟の極意は、現代の「五輪書」か。
text by
伊藤秀倫Hidenori Ito
photograph bySports Graphic Number
posted2021/04/13 07:00
『羆撃ち久保俊治 狩猟教書』久保俊治著 山と溪谷社 2800円+税
「とんでもない本だ、これ」。読み進めながら、思わず唸った。私のようなヒグマ愛好家にとって、久保俊治の名は、アイヌ犬との美しい冒険譚『羆(くま)撃ち』の著者として強く記憶に刻まれている。その久保氏が生涯をかけた「忍び猟」の極意を明かしたのが、本書である。内容の充実ぶりは容易に想像がついたが、第1章の「道具考」からして、猟銃や刃物の選び方やメンテナンスはもちろん、狩猟に携行すべきビニール袋の大きさと枚数にまで触れる徹底ぶりである。一事が万事この調子で、長年の経験に基づく天候の読み方、動物の習性と追跡(トラッキング)技術、獲物の解体法から料理法まで、出し惜しみは全くない。「とんでもない本」たる所以だが、とりわけ印象的なのは、その文体だ。例えば、獲物を銃で狙うときの呼吸については、こう書いている。