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ダルビッシュの「遊びまくっていた」発言で思い出した“スポーツの本質” 山本昌のスクリュー、ラモスの空振り
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byGetty Images
posted2021/02/25 11:04
高校時代、変化球で“遊びまくっていた”と語っていたダルビッシュ有。スポーツの本質に気づかせてくれるエピソードだった
「スポーツをする」の本質
海の向こうではプロ、アマ問わず、スポーツを遊んでいる。
「スポーツをする」の「する」は英語に置き換えるとplay。「遊ぶ」を意味する単語だ。スペイン語やポルトガル語、フランス語やイタリア語の、プレーに相当する単語も同様。スポーツとは本来、遊ぶものなのだ。
毎週、草野球に興じる私は、自分の試合の前後に子どもたちのゲームや練習を見かけるが、そこで気になるのは子どもたちの淡々とした様子。
先日は子どもたちが4人ずつ横に並び、「ゴロを捕って投げる」を繰り返しながら前進していた。実際にボールはない。エアキャッチからのエアスロー。とても遊んでいるようには見えない。いいグラウンドが取れたのだから、好きなように投げて打って走って騒げばいいのに。
こういうのは野球に限らない。サッカーも似たような光景を目にする。イタリアやブラジルだったら、ゲームやらせろと子どもたちが怒り出すだろう。
キックオフで空振りしたラモス瑠偉
サッカーで「遊ぶ」というと、思い出すのがラモス瑠偉さん。
少年時代に見た、日本リーグの映像が忘れられない。キックオフの笛とともに目いっぱい足を振り上げ、思い切り振り抜いたのだ。
おお! びっくりした私は、次の瞬間、もう一度驚いた。
ボールはなぜか元のまま。そう、わざと空振りしたのだ。対戦相手は大きくのけぞってから、目を白黒させている。
そんな相手をあざ笑うかのように、ラモスさんはちょこんとキックオフ。いきなり相手の意表を突き、心理的に優位に立つ。こんなこと、遊び心がなければできない。
ちなみに、ラモスさんのニックネームは“カリオカ”。意味はリオっ子。ブラジルではカリオカというだけで女性にモテる、そんな話を聞いたことがある。
カリオカは遊びの達人。歯を食いしばってがんばったりせず、知恵をつかって小さな努力で多くを得る。ラモスさんの抜け目がなく、人を食ったようなプレーは、カリオカそのもの。遊び人がサッカーをしている、と表現したほうがいいかもしれない。