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【大学ラグビー】「天理さんは声がデカくて…」高校まで無名の“原石”たちが名門・早稲田を驚かせた『勝因』
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2021/01/12 18:01
大学ラグビー決勝・天理大対早大。後半、トライを決める天理大の市川敬太
「関西で優勝したことがあるのは、同志社だけでした」
特にSHの藤原忍(日本航空石川)と松永拓朗(大産大附)のハーフ団は、下級生の時からコンビを組み、4年生になった今年度、もっとも安定し、信頼できるハーフ団へと成長した。
そしてCTBのフィフィタ(日本航空石川)も4年生を迎え、巧みなオフロードなどを駆使し、将来は日本代表として期待される器である。振り返れば、昨季の準決勝の早稲田戦では、特にディフェンス局面で、囮に翻弄され、無力化されていたことを思えば、この1年間での成長には目を瞠るものがある。
一昨年度は帝京、そして今年に入って、明治、そして早稲田と、関東大学対抗戦の名門、強豪校を破ったのだから、小松監督の感慨もひとしおだろう。
「関西の学校で優勝したことがあるのは、同志社だけでした。決勝に出たことがあるのも同志社だけでしたので、ウチは関西で“2番目”に優勝することを目指してやってきました。そして今年まで、決勝まで進みながら優勝経験がないのは、筑波大、東海大、そして天理大でした。そこから、まずウチが優勝にたどり着きたいという思いもありまして。大学ラグビーの世界では、たくさんの大学が優勝しているわけではありませんし、敷居が高いというか。いまは本当に日本一になったんやな、という感じです」
熱い優勝インタビューに答えた松岡大和、藤原、松永、フィフィタなど、4年生の充実をみれば、天理の優勝は必然だったように思える。
「トレーニング機器を使うにも、レギュラー優先だった」
一方の早稲田は、自慢の学習能力を発揮する暇(いとま)を与えてもらえなかった。
接点で食い込まれ、得点源となっていたラインアウトは徹底研究されていた。
また、創造力旺盛と思われていたSH小西泰聖、SO吉村絋の2年生ハーフ団は、“Under pressure”、プレッシャー下の精度に弱点を抱えていたことを露呈してしまった。きっと、この敗戦が彼らを成長へと導くことだろう。
敗戦から一夜明け、スポーツ紙では、監督を3季務めた相良監督の勇退が報道されている。会見で、「この3年間で学生たちが変わったところはどこでしょう?」と質問すると、こんな答えが返ってきた。
「こうしたい。こうなりたいという意志、感情が表現されるようになったことはひとつの成長だったかと思います」
相良監督の就任前、選手たちは「与えられること」に慣れていたという。学生たちから生まれる表現力が弱くなっており、監督自身は選手たちの「欲」を引き出したかった。
昨年度の司令塔、岸岡智樹によればこんな変化があったという。
「1年生の時は、トレーニング機器を使うにも、レギュラー優先だったんです。相良さんが来てからは、全員が平等になりました」
相良流のマネージメントは、エリートだけで勝つのが早稲田ではなく、部員全員から湧き上がる情熱を引き出すことが、名門復活への道であり、それは3年で見事成し遂げられたのではないか。
最後の試合の悔いはあろうが、学生スポーツで永遠に勝ち続けることは不可能だ。
勝ったり、負けたり。
早稲田も、それで強くなった。
そして2020年度は、なにより天理がそうして強くなった。