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FA移籍の裏で「人的補償」はいつも切ない 意外と活躍する選手もいるが…
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News
posted2020/11/30 12:35
巨人にとって24人目となるFAでの獲得選手、野上亮磨。人的補償で西武が誰を選ぶか、また世を騒がせることだろう。
広島は「残り物に福がある」ことを知っているのだ。
2013年の一岡竜司は、巨人時代は2年で13試合の出場だったが、大竹寛の「人的補償」で移籍した広島では、速球でぐいぐい押すセットアッパーとして頭角を現す。今年は59試合に登板して6勝2敗1セーブ19ホールド、防御率1.85、すっかり「勝利の方程式」の一員になった。
今年の巨人は、澤村拓一が全休、救援投手の不足に泣いた。巨人にしてみれば「掌中の珠を失った」感があろう。
広島は「人的補償」でいい素材を見つけるのがうまい。「残り物に福がある」ことを知っているのだ。
痛快だったのは、2013年の脇谷亮太だ。西武から片岡治大がFAで巨人に移籍するのに伴って「人的補償」で西武に移籍したが、西武ではユーティリティプレーヤーとして大活躍。FA資格を取得するや、今度はFA選手として2年で巨人に戻ってきた。
そのときには、片岡は衰えてレギュラーから外れていた。これは「主客転倒」か? 脇谷は「故郷に錦」というべきか?
自分の息子を戦力外に。
11月末、私は台湾でウィンターリーグを見ていた。
イースタン選抜軍には、ヤクルトの奥村展征が選ばれていた。奥村は、相川亮二がヤクルトから巨人に移籍した時の「人的補償」で巨人からヤクルトに移籍した。イースタン選抜を率いた川相昌弘監督は、奥村が移籍した時の巨人のヘッドコーチだ。
川相監督は、台湾では奥村をスタメンで起用した。久々に見る元巨人奥村の成長ぶりをどのように感じたか。
川相監督は今季の巨人では三軍監督だったが、育成枠にいた息子の川相拓也を一軍昇格させることなく戦力外にしている。実力がモノを言う野球界では「親の七光り」は通用しない。我が子に引導を渡す役割を演じた川相監督は、チームは移っても活躍する奥村を「立ち木を見る」思いで見つめているのかもしれない。
「人的補償」は、いい言葉とは思わない。身もふたもない直截的で無機質な言葉だと思うが、この制度をめぐって、さまざまなドラマが起こっていることを見ると、これは「天の配剤」ではないかと思うのだ。
今年の3人のFA選手も「人的補償」があると予想されている。「悲喜こもごも」の物語がまた生まれることだろう。