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佐藤駿vs鍵山優真vs“お兄さん世代”、フィギュア北京五輪切符を見据えた戦いが始まった 

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野口美惠

野口美惠Yoshie Noguchi

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photograph by Sunao Noto, Nobuaki Tanaka

posted2020/11/11 11:05

佐藤駿vs鍵山優真vs“お兄さん世代”、フィギュア北京五輪切符を見据えた戦いが始まった<Number Web> photograph by  Sunao Noto, Nobuaki Tanaka

ライバル鍵山優真を抑え、東日本選手権で優勝した佐藤駿

鍵山はフリーのプログラムを、シーズン途中に変更

 一方の鍵山は、新たな挑戦をこの試合に仕掛けてきた。それはフリーのプログラムを、シーズン途中に変更するというもの。関東ブロックで非公認ながら世界歴代5位相当の287.21点をマークした鍵山は、さらなる飛躍のために、刺激と冒険を求めたのだ。10月上旬に、リモートでローリー・ニコルに振付をしてもらい、1カ月もたたずに東日本選手権を迎えた。

 まずショートは、関東ブロックではノーミスで演じた『Vocussion』。だが、得意とする4回転トウループを2回転にしてしまうと、トリプルアクセルもミスし、71.72点で2位発進となった。

「昨シーズンから通じて4回転トウループが抜けたのは今日が初めてだったので……。すごくびっくりしてトリプルアクセルも動揺してスピードが落ちてしまいました」

 演技後、翌日のフリーにむけて気持ちを切り替えようと、必死に語った。

「ホテルに帰って、明日のフリーまでには4回転トウループを見直します。フリーは、来季が五輪なので、勝ちに行くためには海外の振付師さんにお願いするのが1つの挑戦。来季のための良い経験になると思います」

キス&クライに座ると、声をあげて泣いた

 ところがフリーの初披露は、かなり苦い経験になった。演技冒頭の4回転は3本のうち2本降りたものの、続くコレオシークエンスの途中でエッジをひっかけて転倒。左の尻を強く打った。

「コレオシークエンスはすごくエッジワークが深くて、なおかつターンもかなり難しいので、まだ練習不足でした。ひどいコケ方をして、その時はアドレナリンが出てるので痛みは無かったけど……。コケると思ってなかったので、そのあと身体に力が入らなくなってしまいました」

 トリプルアクセルは、痺れて感覚を失った左足で踏み切る。不安を心の奥におしこめると、3回転半まわしきったものの、2度とも転倒した。合計4度転倒するという、今までにない演技を終えた鍵山。キス&クライに座ると、声をあげて泣いた。悔しさからの男泣きかと思われたが、実際には違った。

「キス&クライに座ったら、お父さんに『逃げずに頑張ったじゃん、全部締めたじゃん』って言われて……。その言葉が嬉しくて、ああ自分は頑張ったんだなと思ったら涙が止まらなくなってしまいました」

 新たな挑戦となるプログラムと、思わぬ転倒、痺れる脚で跳んだトリプルアクセル──。孤高に戦っていた気持ちが、父の優しさに触れ、緩んだのだ。得点は212.32点での2位。昨季の全日本以降は飛ぶ鳥を落とす勢いだった鍵山だが、思わぬ心の脆さを見せる経験になった。溢れる才能に比べれば、それをコントロールする精神面はまだ17歳の少年である。むしろ無限の伸びしろを感じさせてくれた。

 西日本と東日本の2戦。終えてみれば、トップ4人の点数は210点台から220点台での接戦だった。11月27日には、今季初の国際大会となるNHK杯が開催され、直接対決を迎える。まずは、そこで頂点に立つこと。それが来季の五輪切符への大きな一歩になることは間違いない。

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