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セナ最期の地でハミルトンが噛み締めた特別な勝利 思い出すヒーローへの憧れと初めて見た父の涙
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2020/11/08 17:01
ハミルトンは史上最多勝記録を93に上積みする今季9勝目。特別な地でのレースにセナを思った
F1ドライバーとして初のイモラでのレース
「アイルトンのレースをテレビで初めて見たとき、衝撃を受けたんだ。それは技術的にすぐれていただけでなく、ひとりの人間として共感させられる何かを感じたから。彼は常に何か困難に立ち向かっていたように思う。幼い頃、いつもいじめられていた僕にとって、自分の信念のもとに立ち上がり戦っていた彼はヒーローだった」
サンマリノGPが最後に行われたのが06年、ハミルトンがF1にデビューしたのは07年だから、今年のエミリア・ロマーニャGPはハミルトンにとってF1ドライバーとして初めてのイモラでのレースだった。
特別な思いでこの地を訪れたハミルトンは、94年に起こった事故に思いを馳せてこう語った。
「あのとき味わった悲しみは今でも忘れることができない。僕はカートのレースに参加するために、(イギリス南東部の)ライハウスへ遠征していたんだ」
セナの死と、初めて見た父の涙
「父が真っ赤なボグゾールのキャバリエを持っていて、白いトレーラーを連結して移動していた。トレーラーの奥にガスヒーターがあって、そこで僕はカートを修理する父の手伝いをしていた。たしかカデットカートのリアタイヤのボルトを締めるのを手伝っていたんだと思う」
そんなハミルトンにセナの死を告げたのが、父親だった。
「父がどうしてそのニュースを知ったのかは分からない。たぶん誰かがアイルトンが死んだと父に言ったのだと思う。とにかくその後、父が僕の前で泣き始めたんだ。そんなことは今まで経験したことがなかったので、僕はそっとしておくために、父から離れることにした。とても辛かった。そして悲しかった」
しかし、困難に立ち向かうセナに憧れていたハミルトンは、その悲しみをエネルギーに変えてレースを戦う。
「精神的に大変だったけど、確かその週末は勝ったと思う」