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井上尚弥、圧巻勝利に「パッキャオを彷彿」の賛辞 4団体統一へ、モンスターの大河ドラマは第2部突入
posted2020/11/02 11:50
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Getty Images
WBAスーパー・IBF世界バンタム級王者の井上尚弥(大橋)が日本時間1日、米ラスベガスでWBA2位、IBF4位の挑戦者ジェイソン・マロニー(オーストラリア)に7回2分59秒KO勝ち。WBAは4度目、IBFは2度目の防衛に成功した。しぶといマロニーを戦略的に痛めつけ、理を尽くしてのKO勝ち。“モンスター”が理想の試合運びで聖地デビューを飾った。
非の打ち所のない勝利だった。
試合の見どころは、有利と見られる井上が「崩しにくい」と考えていたマロニーをいかにして料理するかにあった。その答えの1つがジャブだ。井上は初回から鋭く、重いジャブを2発、3発とビシビシ打ち込んでいく。2回に入るとペースアップし、マロニーの攻撃に左フックも合わせる。3回にはこれも王者の策の1つ、挑戦者の高いガードを崩すべく用意した右アッパーをヒットさせる。グイグイと前に出ながらもコンパクトにパンチを振るう姿に、ノックアウトへの強い渇望とそれを自制してコツコツと崩していこうという揺るぎない意志を感じさせた。
「なかなか当てられない。それで中盤から」
もちろんマロニーもただ手をこまねいていたわけではない。「100パーセント人生を変える」との決意を胸に、初回から臆さずにジャブを差し合い、チャンピオンに劣らず手数も出した。ただし、早々にして前に出られず下がらされたのは誤算だったろう。マロニーはフィジカルの強さで井上を上回ると見込んでいた。逆に言えば押し込まれないことが勝利への絶対条件だった。それが序盤で崩れてしまったのだから苦しかった。
一方の井上も優勢に試合を進めながら次のように感じていた。
「前半は攻めていったけど、(マロニーは)足も動かすし、上体も動かすし、なかなか当てられないという印象だった。それで中盤からカウンター狙いにした」
井上は5回、圧力をかけながら巧妙にマロニーを誘い始める。攻めに転じなければ勝てないマロニーは自ずと前のめりになる。すかさず井上のフェイントからの右ストレートが炸裂した。6回、マロニーのジャブの打ち終わりに合わせて左フックを振り抜くと、ついにタフなチャレンジャーが尻からキャンバスに落下。クライマックスへのカウントダウンが始まった。