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【ソフトバンク優勝/ギータ伝説】モスバーガーのバイトで始まった柳田悠岐と王会長の「夢」 

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田尻耕太郎

田尻耕太郎Kotaro Tajiri

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photograph byHideki Sugiyama

posted2020/10/28 06:00

【ソフトバンク優勝/ギータ伝説】モスバーガーのバイトで始まった柳田悠岐と王会長の「夢」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

日本シリーズ第5戦、バットを折りながらのサヨナラホームランを打ち、工藤監督と抱擁する柳田。

「ならば夢のある選手の方が」

 現在ホークスのアマスカウト・チーフを務める福山龍太郎は懐かしそうに笑う。

「2位の段階でどちらも残っているだろうという想定でした。もちろん柳田選手も高く評価していましたが、比較をした時に秋山選手の方が確率の高い打撃をする選手ではないかという評価でした。ただ王会長が問いかけてこられたので、それならば柳田です、と。

『ならば夢のある選手の方が良いじゃないか』となったのです。結果的に秋山選手も西武に入って大活躍。それは評価していたスカウトという立場で考えると、すごく喜ばしいです」

 どちらもプロ野球史に残る大打者へと成長を遂げたが、「夢のある選手」という意味では柳田はまさしく王会長の目利きどおりの大スター選手の階段を上ってきた。

 2018年はついにホークスの4番打者に君臨した。出場130試合に本人は不満だっただろうが、打率.352で2度目の首位打者を獲得。本塁打36、そして打点は102で初めて大台を突破した。

 また、出塁率.431で最高出塁率のタイトルは4年連続での獲得となった。'85年に現行の計算方式となってからは落合博満('85年~'88年、'86年までロッテで以降は中日)とトーマス・オマリー('92年~'95年、'94年まで阪神で最終年はヤクルト)に次いで史上3人目の快挙だった。

バットが折れてのサヨナラHR。

 そして何といっても日本中を驚かせたのが、日本シリーズ第5戦のサヨナラホームランだった。延長10回裏、カープ中崎翔太は外角へのスライダーという難易度の高いボールを選択したが、それが裏目となり甘く入った。柳田がそれを逃すはずがなかった。

 快音ではない、鈍い音がした。

「当たった瞬間にバットが折れたのは分かった」

 しかし、白球はバズーカ砲で放たれたように右翼席へ強烈なライナーとなって飛んで行った。サヨナラホームランだ。さすがの怪力ギータにしても「バットを折ってのホームランは初めてだった」と目を丸くした。

 また、意外なことにこれが日本シリーズでは自身初の本塁打だった。柳田は毎年シーズン終盤になると怪我に泣かされた。'15年はデッドボールで骨挫傷、'17年は右脇腹を痛めた中で強行復帰しての出場だった。

 今シーズンも9月の西武戦で練習中のフリー打撃の打球が左の側頭部に直撃する大アクシデントがあり、かなり心配されたがレギュラーシーズン中に無事に復帰していた。

【次ページ】 ああ見えて、実は生真面目。

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