Number ExBACK NUMBER
将棋の感想戦文化がもしスポーツ界にあったら……。マリーと激闘、西岡良仁の「自戦記」を読みたい。
text by
井山夏生Natsuo Iyama
photograph byGetty Images
posted2020/09/05 11:50
全米オープンの1回戦で“ビッグ4”の1人、アンディ・マリーをぎりぎりまで追い込んだ西岡良仁。
「指摘されたら、ぶっ飛ばしたくなります(笑)」
そういった文化が将棋の世界にあることを西岡良仁は知っている。渡米直前に行ったNumber1010号「藤井聡太と将棋の天才」での取材の際にはこう言っていた。
「終わった直後に2人で試合を振り返ることなんてテニスではあり得ません。負けたら、その場から消えてなくなりたいのが普通です。『あそこでこうしてれば良かったのに!』なんて指摘されたら、ぶっ飛ばしたくなります(笑)。
僕が自分に課しているのは負け試合でのセルフ反省会です。自分で自分に突っ込みを入れて、『あそこであの選択はないだろう……』なんて試合を振り返っています。どのポイントが試合のキーだったと思うかコーチに話したりもします。次の試合につなげることはやっていますね。
ただし、テニス選手の場合は負け試合を引きずらないことも大事。毎週、毎週戦いが続くので、終ったことは忘れる、というのも心の健康のためには大切です。そういう意味も含めて、感想戦というのはテニスの世界には馴染まないのかもしれませんね」
ジョン・マッケンローがそうであるように、引退したレジェンドが名解説者となることはある。しかし文筆家となることはない。
だけど、オフコートでの時間がたっぷりとあるのがいまのコロナ時代。西岡のセルフ反省会の内容が自戦記として読める日がそのうちくるかもしれない。楽しみに待とう。