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羽生結弦、GPシリーズ欠場に寄せたメッセージ。ライター松原孝臣はこう読み解いた。 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byAsami Enomoto

posted2020/09/06 11:40

羽生結弦、GPシリーズ欠場に寄せたメッセージ。ライター松原孝臣はこう読み解いた。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

新型コロナ感染拡大が続いていた今年5月にはファンに向け、3本の演技の動画を公開した羽生。

羽生が動くことで「多くの人が移動し集まる可能性が」。

 羽生は気管支ぜんそくの持病がある。感染した場合のリスクを考慮し、さらにコーチが大会時に不在となる可能性を示している。

 おそらくは万全の対策をとっていたであろうトップアスリートが、それでも感染したケースも見受けられる現実もある。リスクは決して小さくはない。

 それ以上に目をひいたのが、その後に続く言葉だ。再びコメントを引用する。

「このコロナ禍の中、私が動くことによって、多くの人が移動し集まる可能性があり、その結果として感染リスクが高まる可能性もあります。

 世界での感染者数の増加ペースが衰えておらず、その感染拡大のきっかけになってはいけないと考え、私が自粛し、感染拡大の予防に努めるとなれば、感染拡大防止の活動の一つになりえると考えております。

 大変残念ではありますが、以上の理由から、今シーズンのISUグランプリシリーズを欠場することを決心いたしました。

 一日も早く新型コロナウイルスが収束することを願っております」

試合への意欲は人一倍強い選手。

 3つ目の理由としてあげたのが、周囲への気遣いだった。

 羽生は、フィギュアスケートにおいて、随一の注目度を誇る。出場する大会には、国内外を問わず、多くの人々が観戦に訪れる。取材する人々も集まる。多少のリスクを冒してでも目にしたいと考える人もいることは考えられる。そうした状況も、羽生の想像する範囲にあった。

 好敵手と競い合いつつ、自身の目指す演技を発現する舞台として、試合への意欲は人一倍強い選手であると感じさせてきた。

 過去、棄権しても、欠場してもおかしくない状況でも出場したことはしばしばあったこともそれを物語る。にもかかわらず、どうにもならない大怪我で欠場を強いられたときを除けば、初めての欠場を選んだ。そこにあった葛藤は計り知れない。

【次ページ】 トップアスリートとしての責任感。

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