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苦手だった英語も流ちょうに。
恩師が語る堀米雄斗の高校秘話。

posted2020/07/19 08:30

 
苦手だった英語も流ちょうに。恩師が語る堀米雄斗の高校秘話。<Number Web> photograph by KYODO

昨年9月の世界選手権では『王者』ナイジャ・ヒューストン(米国)に次ぐ2位。五輪でもメダル獲得に期待だ。

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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KYODO

 入学時の約束は「路上でスケートボードに乗らないこと」だけ。東京五輪の新競技であるスケートボード男子ストリートの金メダル候補、堀米雄斗(XFLAG)の高校生活は、「ここならスケボーと学業を両立できますか?」で始まった。

 進学先として選んだのは、通信制高校のサポート校である聖進学院東京校だ。さまざまな理由で中学生活がうまくいかなかった生徒が集うこの学び舎では、「他人に迷惑をかけないこと」以外の細かいルールはない。個々の課題に沿ってカリキュラムを選ぶことができる中で、堀米は毎朝スケートボードを抱えて自宅を出ると、午前10時から授業を受け、午後はそのまま練習場へ向かった。ボード持参で登校したいと願い出たのは、少しでも長く滑りたいから。堀米に影響されてスケボーを始めた同級生の多くが、教師の目を盗んで路上を滑る中で、彼だけは最後まで約束を守り抜いた。

 堀米を3年間担任し、現在は学院長を務めている田上光徳氏によれば、「彼は口数は多くないのですが、いつも友人に囲まれていました」という人気者だった。スケボーで転んで手足を骨折することはしょっちゅう。三角巾で腕を吊りながら、クラスメートに昼ご飯を食べさせてもらっていたこともあった。

卒業時の夢を決して諦めなかった。

 卒業後は、「プロスケーターになって10億円稼ぎます。絶対に有名になります」と言って米国に渡った。その後の快進撃は目を見張るばかり。'18年には世界最高峰ストリートリーグをアジア人として初制覇したのをきっかけに3連勝を飾り、Xゲームズも制した。米国のプロショップから堀米モデルのデッキ(板)も発売された。聖進学院への入学時、アルファベットの小文字を書きなさいという設問で大文字のABCを豆粒のように小さく書き、「そんなの習っていません」と言った子は、いつの間にか英語のインタビューを流ちょうにこなすようになっていた。

「卒業時に抱いていた夢を、彼は決して諦めなかった。苦手な英語も必要だと思えば上達できた。その姿は、『自分も変われる』と、生徒たちの励みになります」(田上氏)

 今年2月、堀米が母校を訪ねてやってきた。「先生、五輪出場が決まったらチケットを用意します」。2度目の約束を交わした。

堀米雄斗

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