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小林浩美、宮里藍らの長所を全て持つ、
渋野日向子の本当の課題とは?
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byKyodo News
posted2020/06/29 11:50
肉体強化の成果が見える現在の渋野日向子のスタイル。パターもまた、新しいものに変えたのだが……。
「ゴルフをやめようと思ったこともあった」
2006年から米女子ツアーに挑み始めた宮里藍は、美しいスイング、安定性のある「きれいなゴルフ」の持ち主で、パットの上手さは大いなる武器だった。日本の国民的スターとしての自覚を強く抱き、見事なほどにスターとしての役割を果たしていた。
だが、仮面を被ってでもスターを演じ続けることは、日に日に彼女の心の重荷になっていった。そして、パワフルな他選手たちと伍して戦わなければと思い立ち、さらなる飛距離を求めたことで、せっかく持ち合わせていた「きれいなゴルフ」に狂いが生じた。
心技体のバランスを失った宮里は深刻なスランプに陥った。
「ゴルフをやめようと思ったこともあった」
宮里の時計は、あのとき一時停止した。立ち直ることができたのは、自分なりのリズムやペース、自分らしいスイングやゴルフこそが大切な財産であることに彼女自身が気付いたからだった。
「欲を出して、求めすぎて、見えなくなっていたんです」
宮里の米女子ツアー通算9勝は、その先で達成された。
渋野は全部持っている。
日本人女子選手として世界に挑んだ先人たちは、それぞれに試行錯誤と紆余曲折を経て、なんとか栄光に辿り着いた。遠回りだったのか? いや、当時は、そういう道しかなく、彼女たちはそれぞれの時代に必死で最短の道を拓いてきたのだと思う。
それならば、渋野はこれからどんな道を辿ろうとしているのだろうか。
孤軍奮闘の末に小林が身につけたダイナミックな思考や姿勢。それは、渋野が随所で見せる思い切りの良さ、割り切りや切り替えの良さに、すでに見て取れる。
宮里同様、渋野も「きれいなゴルフ」をすでに身に付けている。さらに、国民的スターとしての役割を自負し、その務めを遂行している。それが重荷になっているかどうかは、渋野にしかわからない。渋野にもわからないのかもしれない。だが、少なくとも渋野には仮面を被ることなく素顔をさらす、あけっぴろげな開放性がある。
そう、渋野は全部持っている。先人たちが長い歳月をかけ、苦悩や涙の果てにやっとのことで得たものを、渋野は全部持っている。
先人たちが追い求めた世界の舞台での勝利という究極の栄冠さえ、渋野はあっという間に手に入れた。
それが、渋野が「規格外」である所以だ。