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錦織圭14歳、激闘の末の真骨頂。
小さな怪物の粘りと覚悟に痺れた。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHidehiro Akiyama
posted2020/04/06 19:00
ジュニアのデ杯を戦った当時の錦織圭。16年後の今も世界トップのテニスプレーヤーとして戦っている。
3時間40分の勝利に照れくさそう。
ゲームカウント8-7で、錦織にマッチポイントが来た。
村上監督から「自分から取りにいけ!」と初めて大きな声が飛んだ。錦織自身、ここで何をすべきか分かっていたに違いない。
リバがネットを取った。彼もまた、自分のやるべきことが分かっていたのだ。前に詰めることで、マッチポイントを握った錦織に逆にプレッシャーをかけたのだ。しかし、錦織の心と技は揺るがなかった。狙いすましたパッシングショットが、リバの足もとを抜けていった。
ファイナルセット9-7、所要時間3時間40分で錦織が勝利をつかんだ。監督の村上は感極まったように選手を抱きしめる。すると、錦織は照れくさそうに、少し迷惑そうな表情さえ見せて、その祝福に応えた。
“勝った”からこそ心動かされた。
その後、休憩をはさんで行なわれたダブルスに富田と組んで出場した錦織だったが、疲れもあって、わずかに及ばず、日本はスペインに敗れた。
結局、日本はラウンドロビン(1次リーグ)を1勝2敗で終え、順位決定戦の結果、16チーム中11位に終わることになる。
しかし、14歳の錦織が地元スペインのエースを破ったこの試合は、間違いなく大会のハイライトのひとつだった。翌日、大会本部に足を踏み入れると、大会を主催する国際テニス連盟のスタッフに呼び止められた。
「いい試合だったね」
きっと彼女もその感動をだれかに伝えたかったのだ。
確かに、だれもが心を動かされる試合だったと思う。だが、肝心なのはそこで錦織が“勝った”ということだ。才能の片鱗を見せただけなら興奮は半分以下だった。技術と戦術、メンタルの強さを見せ、最後にしっかり勝った。だから筆者のメーターは振り切れたのだ。