スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
日英の新聞報道を比較して見えた事。
五輪延期、主導はIOCか日本か。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKyodo News
posted2020/03/26 17:00
バッハ会長と、安倍首相。IOCと日本の利害は一致している部分と異なる部分があった。どちらが上手だったのか。
「日本のメンツを失わせない」というテーマ。
IOC内でも、ここから一気に延期に向けての仕込みが始まっていったようだが、IOC側がもっとも重視したのは、
「日本のメンツを失わせないこと」
だったとイングル記者は書く。
延期の流れのなかで、日本側は2020年秋の開催を主張したという。しかし、その時点ではコロナウイルス禍の終息の保証がないとIOC側が拒否した。当然だろう。
ただし、日本が2020秋開催を主張したことは、私が目を通した限りでは我が国の主要メディアでは報じられていない。
もうひとつ、『ガーディアン』の報道で興味深いのは、22日にIOCのバッハ会長が、
「延期を含めて複数のシナリオを検討し、4週間以内に決定する」
と発表した件だ。
イングル記者は、「4週間」という設定が日本側の強い要望であり、IOCは渋々受け入れたと書いている。
バッハ会長が日本の見えないところで動いた?
この「4週間」という時間については、世界中の選手たちから大きな非難が沸き上がった。加えて、23日にはオーストラリア・オリンピック委員会のジョン・コーツ会長が、
「オーストラリアの選手たちは、2021年に向けて準備するように」
と選手たちに向けてメッセージを発信した。それと歩調を合わせるかのように、カナダ・オリンピック委員会も2020年に開催されるのであれば、選手団を派遣しないと声明を発表した。
事実上のボイコット宣言である。
これによって「4週間以内に決定する」と発表したIOCは恥をかいた格好になっていたが、『ガーディアン』紙は、この一連の流れはバッハ会長の「ステルスな動き」、つまり、日本の見えないところで画策していた策謀だったと書く。
オーストラリアのコーツ会長は、バッハ氏と近い。
バッハ会長が、オーストラリア、カナダの両国に発信させたと見るべきだという。
「完全な形で」とこだわる日本政府に対して、即刻判断しなければ大変なことになる――とゆさぶりをかけたのだ。