箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
箱根経験者が席巻するマラソン界。
急激なレベルアップはなぜ起きた?
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2020/03/29 11:40
各大学のスカウト網も発達し、有望な高校生ランナーは漏れなく箱根強豪校から声がかかる。箱根は才能の見本市なのだ。
他大や実業団選手との交流も好影響。
選手のマインドも変化してきている。
レースで他校の選手と高いレベルで競い合ったり、SNSなどで互いの練習や呟きから刺激を受け、「あいつには負けられない」と練習メニュー等を含む強くなるための環境を自ら作り出していくようになった。与えられたものだけで練習するのではなく、自分の頭で考え、実践していく選手の数が増え、それが自立にも繋がっている。
また、陸連の合宿に招集されたり、夏休みに実業団の夏合宿に参加し、トップレベルの選手と一緒に練習する機会が増えた。
トップ選手の練習への取り組み、日々のケアなどを間近で見ることで刺激を受け、競技者としての意識が向上し、「学生だから」という甘えを捨て、大学に戻ってからも学んだことを継続する選手も多い。
競技への取り組みが学生ながら実業団レベルに進化し、自分が日本のトップに立つという志を持って練習し、レースに参戦する選手が増えてきたのだ。
箱根ブランドはさらに高まる。
学生の力が上がってきていることで、強化方法も多様化しつつある。
かつてはマラソンへの挑戦は、トラックでスピードを磨き、経験を積んでからという考えが一般的だった。だが今は、3、4年生になるとマラソンに対する選手の意思を確認し、実力を判断した上でマラソン対応の練習を始める大学も多い。将来進むべき道への挑戦を卒業前に始められる意義は大きい。大学は、もはや将来の種目を模索するモラトリアムの場ではなくなっているのだ。
春からは実業団に入った相澤(旭化成)や伊藤達彦(Honda)、浦野雄平(富士通)、土方英和(Honda)、館澤亨次(DeNA)、鈴木塁人(SGH)ら今年、箱根を沸かせた実力ある選手がレースシーンに登場してくる。
最近の箱根駅伝は質の高い練習を乗り越え、激しい部内競争を勝ち抜いた強い選手しか走ることができないので、優勝を争う大学の選手はすでに高いレベルにある。
それゆえ、彼らがいきなり日本のトップレベルを脅かす存在になったとしても驚きはない。これからの日本の長距離界は、ますます「箱根ブランド」の選手が輝きを増していくことになるはずだ。