Overseas ReportBACK NUMBER
五輪は延期でも練習難民は続く。
「選手である前に、社会の一員」
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAFLO
posted2020/03/26 11:50
4年に一度、いや人生に一度の機会である五輪の状況が不透明な中でも、多くのアスリートは自制心を持って行動した。
イギリス陸連の対応が批判必至。
練習場所がなく、助けを求める選手の手を荒々しく振り払ったのはイギリス陸連だった。
トップ選手が練習するラフバラー大学の使用を、「五輪の標準記録を切っている選手とコーチ、練習パートナー、世界ランク上位のパラリンピック選手のみ」と発表。標準記録を切っていない選手たちは施設から追い出された。
これは実質的に、「現時点で標準記録を破っていない選手には期待していない」と言うメッセージでもあった。
これまでもイギリス陸連は、選手に対して「あなたは絶対にメダルをとれないから、標準記録を切っているけど世界陸上に連れて行きません」というメールを送るなど、選手に敬意のない態度を取ることが多かったが、今回の対応でさらなる批判が向けられることはまちがいない。
練習ができない状態なのは、アメリカやヨーロッパだけではない。感染者が増えている中南米やカリブ海諸国も同様で、ジャマイカも今週の水曜日から陸上の練習場所が閉鎖。選手たちは各自、道路などで練習を行っているほか、2月に三段跳で世界新を出したベネズエラのユリマル・ロハスも「練習は禁止。自宅にいるように指示された」とSNSに書き込んでいる。
最初は明るく振る舞っていた選手も。
練習場所がなくなり、「練習環境がないのにどうしよう」「練習ができない状態で五輪なんて迎えられない」と嘆くだけではなく、一歩進んだ発言をした選手たちも多かった。
アメリカの棒高跳び選手でリオ五輪銀メダルのサンディ・モリスの言葉がとても興味深い。
彼女は拠点のアーカンソー大学が閉鎖された際、「暗くなってる暇はないし、がんばらなきゃ」と、同じ陸上選手の夫と近くの公園などで基本練習をする動画をSNSに上げるなど、ポジティブに振る舞っていた。
しかし刻一刻と悪化する状況を目の当たりにし、自分たちの行動に疑問を持ち始め、声を上げた。