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渋野日向子が笑うと周りも笑う。
「変顔!」からの、最高の表情。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byShin Suzuki
posted2020/02/29 11:50
今回の撮影でも彼女の笑顔のパワーは健在だった。
本人がたまらず吹き出すと。
それは、ちょっと強引なんじゃ……、と見ているこちらは思ったけれど、何千人も撮影してきた彼は、どこまで踏み込めるかの境界線をもう掴んでいたのだろう。
渋野は「変顔ですか!?」と言った後、顔をすぼめて、「いーん」とカメラに向かって歯をむいた表情で応えてくれた。
たまらず本人がすぐに吹き出し、周りもそれにつられて大きく笑った。鈴木カメラマンの人差し指が最後のシャッターを切った。
数あるカットの中で、誰もが真っ先にチョイスするベストショットがそこに残っていた。がらんとして冷え冷えとしていたホールも、いつの間にかぽかぽかとして、太陽の光がホールの壁や床を白く照らしていた。
2011年の東日本大震災の直後、漫画家の井上雄彦は、Twitterに「すべての人の無事を祈ります」と書き込み、笑顔の少年やお年寄り、動物を描いた「Smile」の連作を立て続けに投稿した。被災者へのエールはどれだけの人の癒しになっただろう。
空爆や砲撃が続く内戦下のシリアに住んでいたアブドラ・ムハンマドは、3歳の娘サルワちゃんの恐怖心を和らげるために、“爆発音が聞こえたら笑う”というゲームを考えた。「爆発したら笑おうね」。今年2月にアップされた父娘で笑い合う動画は、瞬く間に世界中に拡散した。
笑顔にはそういう力がある。
日本に漂う重たい雰囲気。
今の日本では、街行く人の顔はマスクに覆われてその表情からは多くを読み取れず、他人と向き合う時の距離は今までよりなんだか少し遠くなった。誰もが少し疑心暗鬼になっている。
スポーツイベントやエンターテイメントの興行は自粛を求められ、それがまた人々の笑顔を奪っていく。
渋野の今季初戦となるはずだったタイ、シンガポールでの米女子ツアーのイベントも中止となった。それならば沖縄での国内ツアー開幕戦で、と思っていたら、こちらも一度は無観客試合と発表され、最終的には中止が決まった。笑えない。笑えない事態だ。