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五輪後の現役引退を表明した
村上茉愛の鮮やかなリスタート。
posted2019/10/03 15:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
KYODO
集大成と位置づける東京五輪へ向けて上々の再スタートを切った。体操の2017、'18年世界選手権金銀銅メダリスト・村上茉愛(日体クラブ)が、社会人1年目で初出場となった全日本シニア選手権(8月30日、福井県営体育館)で4種目合計56.665点の高得点をマークして、女子個人総合を制した。
腰痛で5月のNHK杯を棄権し、今年の世界選手権(10月、ドイツ)の代表を逃している村上だが、約3カ月ぶりの個人総合戦はさすがの演技内容だった。世界選手権初代表の松村朱里に1.500点差をつけての勝利で安定感を見せ、「ミスなくできたので、復帰戦としては良かった」と笑顔を浮かべた。
大会前日の会見で、東京五輪を最後に第一線を退くことを表明した。23歳の決断に試合のムードがピリッと引き締まる中、最も注目されたのは、今大会が初のお披露目となったゆかの新プログラムだ。'17年に世界を制した盤石のプログラムから音楽、演技構成、振り付けをすべて一新した。
「東京が集大成になるという気持ちを込めてつくった」という意欲作は、しなやかなギターの音色から始まり、途中からポップなリズムに転調する90秒間のショータイム。武器とするH難度の大技「シリバス(後方抱え込み2回宙返り2回ひねり)」やF難度の「後方伸身2回宙返り」など、得意のビッグタンブリング4本は変えず、ダンス系の振り付けを細部までブラッシュアップすることで23歳らしい魅力を追求している。
早くも出場選手ただ1人の14点台。
「曲を変えるのは今回が最後。前回の力強い感じとは違う曲調で、レオタードも体操面でも大人っぽくということを、今後の自分の見せ方にしていきたいと考えています」
満員の観衆が息をのんで見守った演技には出場選手ただ1人の14点台となる14.033点が出た。新しい構成に取り組んでから1カ月半と短く、完成度はまだまだ。演技の難度を示すDスコアは従来より0.2点低い5.8点にとどまり、ラインオーバーによる0.1の減点もあった中で、さすがの得点だ。
「ここがスタートです」
来夏までの伸びしろを思い浮かべるように、その目は輝いていた。女子体操には村上がいる。日本を勇気づける力がある。
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