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世界選手権、ボルダリング&リード編。
日本勢が見せた「実力」と確かな「成長」。
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph byAFLO
posted2019/08/22 11:00
森秋彩は「悔しさ70%」の銅メダル。
ボルダリング決勝の翌日から始まったリードでは、ボルダリングの結果に打ちひしがれていた森秋彩が予選、準決勝、決勝と3つのラウンドすべてで会心のクライミングを見せた。
森秋彩は、大会初日の女子ボルダリング予選で敗退が決まった決まると、観戦に訪れていた家族のいる観客席でうなだれていた。コーチが寄り添い、何度も励ましの言葉をかけるものの、肩ひとつ動かさない。森秋彩が大会前に自身にかけた期待と自信が、まるで大きな重りとなって彼女を押し潰そうとしているように見えた。
そこから3日後の女子リード予選を、森は2位で通過。翌日は準決勝を3位で終えて決勝に駒を進めた。決勝戦では中盤でムーブに詰まる場面もあったものの、粘り強く動き直して突破して高度を稼いだ。優勝したヤーニャ・ガンブレット、2位のミア・クランプルのスロベニア勢に次ぐ3位となり銅メダルを獲得した。
「あと一手伸ばせていたら、2位にもなれたし……。いまは悔しさ70%、うれしさが30%」
森は悔しい時ほど声が小さくなる。世界選手権の銅メダル獲得にも、その声量は取り囲んだ記者たちのICレコーダーが、彼女の口元にまで迫ったほど。完登を逃したこと、優勝できなかったことの悔しさをバネに、森はさらなる成長を遂げていくはずだ。
その森がこどもの頃から追いかけてきた同郷の野口啓代は、決勝に進んで5位。ボルダリングに続き、リードでも好結果を残したことに、本命であるコンバインドに向けて好感触を得たのだろう。その表情は穏やかな笑みをたたえていた。
男子リードでは楢﨑智亜が4位、原田海が7位になったほか、楢﨑明智と藤井快、西田秀聖も準決勝に進出して、それぞれ12位、14位、22位。東京五輪に向けてさらなる強化もしてきたこともあり、日本が弱点とされてきたリードでも着実に実力を伸ばしていることを示した。
もともと西暦の偶数年に行われてきた世界選手権は、東京五輪と重なることから、今大会から奇数年に変更された。次回は2021年にロシアでの開催が予定されている。東京五輪の実施種目になったことで、スポーツクライミングの裾野は世界中に広がり、各国のレベルも着実に高まりつつある。誰がどんな活躍をするのか、早くも2年後が待ち遠しくて仕方がない。