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全英制覇・渋野日向子、笑顔の力。
「見たことがない」米TVアナも驚愕。
posted2019/08/05 17:00
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
KYODO NEWS
全英女子オープン最終日。2位に2打差の単独首位で1番ティに立った渋野日向子は、それまでの3日間と同じように屈託のない笑顔でスタンドやロープ際のギャラリーに挨拶をした。そして、日本人らしく一礼。それからセットアップに入っていった。
ティショットを打ち、フェアウエイ方向へ歩き出した渋野は、ロープ際から声援を送ってくれていたギャラリーの方へ視線を左右に動かしながら、小さく手を振り、にっこり微笑み、そうやって前方へと進んでいった。
そんな渋野の様子を見て、米TV中継局のアナウンサーは驚きの声を上げていた。
「最終日最終組でティオフする選手が1番ティであんなふうにスマイルを見せ、あんなふうに観衆に手を振って歩いていくなんて、これまで見たことがありません」
そして、その現象は18番まで続いていった。あるホールのグリーンを終えて次のホールのティグラウンドへ向かう途上では、ロープ際から差し出された「すべての手」に応えるようにハイタッチやロータッチを繰り返し、声援に笑顔で応え、会釈もした。
「心臓が止まりそう」な状況で……。
極めつけは、首位タイで迎えた72ホール目の18番。バーディーを奪えば優勝、パーならプレーオフという状況は、強靭な肉体を誇る米ツアーの男子選手たちでさえ、「心臓が止まりそうだった」などと表現するであろう緊張のシチュエーションだった。
しかし、フェアウエイからセカンドショットを打とうとしていた渋野は、そのときでさえ満面の笑みを見せながらキャディと会話していた。
「ここでシャンクしたらカッコ悪いな」という話をしていたそうだが、メジャーの優勝争いの大詰めで、勝利を左右する一打を打つ際に、そんな気楽な会話を交わし、笑顔を見せるという姿も、前述のアナウンサーの言葉を借りれば、「これまで見たことがありません」。
日本人によるメジャー制覇は1977年の樋口久子以来、42年ぶりの快挙だが、笑顔で勝利を手に入れたという意味では、渋野は「日本」という枠を超え、世界の誰もやらなかったこと、誰もやれなかったことをやってのけたと言っていい。
そう、笑顔で勝利したことが、彼女の勝利の意味を一層深く大きくしてくれたのだと私は思う。