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平成28年、川崎宗則は野球を愛し、
成長する喜びを全身で感じていた。
posted2019/04/20 12:00
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph by
Mami Yamada
その溌剌としたプレーと底抜けに明るいキャラクターで、野球界の「太陽」のような存在だった川崎宗則。イチローを追いかけてメジャーリーグに移籍してもその姿勢は変わらず、現地のファンにも愛された“ムネリン”は、アメリカで「自分の知らなかった野球」に触れた喜びを率直に語った――。(Sports Graphic Number903号 収録)
マイナーリーグの日程は過酷だ。
20連戦と20連戦の合間の貴重な休日を前に、川崎宗則は3Aアイオワ・カブスのチームメイト、一人一人にメールを送った。
「今度の休み、みんなで食事に行こうぜ。タコマのレストランで、午後6時に!」
ワシントン州タコマ。シアトルから車で1時間ほど南へ下ったところにあるこの街には、マリナーズの3A、タコマ・レイニアーズが本拠地を置いている。川崎はかねてから、この街へ遠征に出向いたタイミングで休日があることを見据え、チームディナーを主催しようと目論んでいたのだ。
「タコマには美味しい日本食のお店があるからね。そこにみんなで行きましょう、ということ。久々の熱燗、楽しみだね」
「英語? わかんないよ(笑)」
そんな川崎の誘いに応じて、仲間が次々とやってくる。テーブルを囲んで座敷の掘り炬燵に座ったのは、全部で11人。中には、約束があってすでに食事を済ませたのに「カワが誘ってくれたから」とやってきた選手もいた。「スシを食べに行くなんて聞いてない、おかげでランチにスシを腹いっぱい食べちゃったじゃないか」と、冗談半分、川崎に絡む選手もいる。チームメイトには元阪神のマット・マートンもいて、そこだけは関西訛りの日本語が飛び交うものの、それ以外はすべて英語でのやり取りだ。そして英語ができないはずの川崎は、なぜかいつも会話のど真ん中にいる。
「英語? もちろん何言ってるか、わかんないよ(笑)。おれ、人の話を聞くのは好きだからちゃんと理解したいって思うんだけど、訊かれたことに対してちんぷんかんぷんなことを答えたりもしちゃう。でもそうやって一緒にメシを食ってると、いつの間にか2、3時間は経ってるんです。だからけっこうわかり合えてると思いますよ」
改めて、たいしたものだと思う――。
日本から来た選手が、英語に自信もないのにアメリカ人のチームメイトを食事会に誘うなんて話は、聞いたことがない。アメリカ人の選手たちに囲まれて、川崎はホストとしてみんなを盛り上げていた。速射砲のような英語が川崎に浴びせかけられる。川崎は相手の目をじっと見ながら話に聞き入り、絶妙のタイミングで合いの手を入れ、何やら返事をする。そこでドッと笑いが起こった。確かにわかり合えているようだ。