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平成28年、川崎宗則は野球を愛し、
成長する喜びを全身で感じていた。 

text by

石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

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photograph byMami Yamada

posted2019/04/20 12:00

平成28年、川崎宗則は野球を愛し、成長する喜びを全身で感じていた。<Number Web> photograph by Mami Yamada

川崎宗則という選手はメジャーリーグに、数字で表せないインパクトを残した。それだけは間違いのないことだ。

いつのまにか川崎が祝われていた。

 やがて、店の人がでっかいケーキを運んできた。つられてみんなが“Happy Birthday”を唄い出す。今日はいったい誰の誕生日なんだと訊かれた川崎は、こう言った。

「今日はジョバンニのバースデイだよ」

 チームメイトの一人、ジョバンニ・ソトがちょうど食事会の日に誕生日だということを知り、川崎はサプライズのお祝いをしようと店にケーキを発注した。しかし残念ながら、ソトはこの日、不参加。するとマートンがすかさず川崎に突っ込んだ。

「カワサキさんのタンジョウビ、めっちゃ近いでしょ。OK、じゃあ、今日はカワサキさんの誕生日をお祝いしましょう」

 用意されたパーティハットをかぶって、川崎はマートンのノリに付き合う。いつしかその日は半月先の川崎の誕生日を祝うという、摩訶不思議な食事会になっていた。

「カブス、よう、おれを獲ったな」

 アメリカの野球に身を投じて5年目。

 川崎が5年連続でマイナー契約を交わしたことも驚きなら、5年連続でメジャー昇格を勝ち取ったことも異例だ。とかく誤解されがちだが、アメリカでメジャー球団とマイナー契約を交わすことは決して容易なことではない。まして若い選手の台頭が後を絶たないこの世界で、30歳を過ぎてからの5年連続でマイナー契約のオファーがあった事実は、川崎の評価がいかに特別なのかということを物語る。カタコトの英語でも物怖じせず、むしろ積極的に仲間の中へ飛び込み、チームに一体感をもたらす川崎の得難いキャラクターが彼の評価を高めていることは間違いない。カブスとのマイナー契約を交わした直後、川崎はこんなふうに言って、おどけていた。

「カブス、よう、おれを獲ったな。目のつけどころは悪くないぞ、カブス(笑)」

 今シーズン、開幕から快進撃を続けるカブスの内野陣には役者が揃う。去年の新人王を獲得したサードのクリス・ブライアントは24歳、ショートを守るアディソン・ラッセルは22歳。セカンドのベン・ゾブリストは35歳だが、同い年の川崎が「おれが目指すべき」だと言って憚らない、スキのない選手だ。とはいえシーズンが始まればブライアントは外野を守り、ゾブリストは内外野、どこのポジションもこなす。マイナーでショートを守る川崎にもメジャー昇格のチャンスがないわけではない。

「でも、おれはチームに合わせないよ。カブスがおれという選手を必要とすればいいだけの話で、おれは一人の選手として野球技術を磨いて、上手くなる努力をするだけ。時が来たらメジャーに呼ばれることもあるだろうし、マイナーでずっとプレーしているかもしれない。『たくさん試合に出られるのになぜ日本じゃないの』とか『なぜマイナー契約なのにアメリカなの』ってよく訊かれるんだけど、マイナーでもメジャーでも、おれ、毎日、試合には出てるからね。メジャーが野球で、マイナーが(実家が営む)電気工事なら、そりゃ、メジャーへ行きたいって必死になるけど(笑)、メジャーもマイナーも、どっちも野球だからね」

【次ページ】 体が違うから、ではない。

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